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2018.08.18

四畳半から変わる未来──北川フラムが語る「大地の芸術祭2018」

大地の芸術祭総合ディレクター 北川フラム

四畳半の自分のいる場所が世界を映す

この芸術祭の作品の特徴は、地域に根付いた匂いをアーティストが嗅ぎ取ってできたもの。都会にあふれているような視覚情報だけでなく、音や匂い、手触りなどの五感をフルに使った作品も特徴です。2018年に取り組みたいテーマはそれらに追加して、「四畳半の方丈」。2000年に開始して以来、はじめてメッセージ性を持たせました。

いまの日本という国を、みなさんはどう思いますか。正直、先が全く見えないという人も多いでしょう。このままではアメリカと殉教するのではないかと危惧する声も。生き甲斐がなく学力も低下し、地球環境は悪化する一方。都市と田舎だけではなく、経済格差も広がり続けています。

そこで、いまこそ立ち戻りたいのが中世です。日本の中世とは、戦争に飢饉、災害が頻繁に起こる荒れた時代でした。そんな乱世の世に生まれたのが鴨長明。彼は、末端貴族に生まれながら趣味の琵琶や歌詠みを極めプロとなり、晩年は方丈(およそ四畳半ほどの広さ)にこもります。小さな方丈から乱世を覗き、この最小単位の自分のいる場所に世界を映し出したのです。

同様の考え方をしている人たちが、良寛の五合庵であり、アガサ・クリスティーのミス・マープル。ミス・マープルは、田舎暮らしをしながら、どんな事件も「5年前にこの村で起きた〇〇と同じことだから」と当てはめて解決してしまいます。

どんなミクロコスモスでも、そこに世界を映し出しているのです。そして僕は、この方丈の大きさこそ人間が生きていく上での最小単位だと信じています。



必要なのは個人の鬱屈。そこからイノベーションが花開く

鴨長明の方丈の世界観に共鳴したのが、戦後に登場した堀田善衛。第二次世界大戦の戦中、戦後の時代は荒れていて、中世の時代と重なるところがありました。それを表現したのが堀田が書いた「方丈記私記」。

その頃から少し経ったいま、表向きには戦争こそないけれども八方塞がり。息苦しい世の中になっています。そう、今こそ今の時代の方丈記私記を考える必要があると私は思うのです。なぜなら煮詰まった時代にこそ新しいイノベーションは生まれるのだから。

中世だって鴨長明以外にも素晴らしいアーティスト、紀貫之が生まれています。彼は元々、貴族の超名門。しかし権力争いに負けて末端貴族に追いやられ、ふすま張りのアルバイトをする訳ですが、そんなことはやりたくない。鬱屈が溜まっていたはずです。

そんな中、ふすまの破れたところに色紙を貼るのだが漢字は合わない。そこで、崩し文字でひらがなというものを発明します。個人の鬱屈をイノベーションへ昇華させた訳です。

ヨーロッパの中世も同様、錬金術やレオナルド・ダ・ヴィンチが登場したのも鬱屈した環境下でした。この葛藤があるからこそ、それを乗り越えていくための新しい工夫、イノベーションが生まれるのです。
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文=成瀬勇輝

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