平安時代、災害や飢饉で街は荒れていた。 世の中に振りまわされず最小限の物と住まいで、 場所にも囚われず好きなことに打ち込める環境。それが方丈だったのだ。
ぼくたちON THE TRIPは、日本各地のオーディオガイドを制作している。バンをオフィスに、寝床に、キッチンに、ときに団欒の場として日本各地をめぐりながら。どこにでも自由に動かすことのできるミニマルな空間であるバンは、現代の方丈と言えるかもしれない。
この8月で日本各地のオーディオガイドを制作する旅もようやく一年がすぎた。アプリをリリースしてからも一年経ったのだが、ぼくたちが一番初めに制作したガイドは「大地の芸術祭」だった。
今年(2018年)は3年に一度の会期で、世界中からたくさんの人が集まる。ON THE TRIPはその公式オーディオガイドに加え、今回はバンも作品として越後妻有里山美術館[キナーレ]の入り口の駐車場に展示している。
今年の大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018におけるキーワードの1つが「方丈」だ。果たして方丈とは何なのか? なぜ今の時代に考え直す必要があるのか。そこから見えてくる新しい美術とは?
芸術祭の総合ディレクターである北川フラム氏は、街も人も均一化されていくことに問題意識を持ち、地域の価値観はなにかを探っていくことが芸術祭のテーマだと話している。ここでは特別に、同氏がいままで以上に熱を込める今期芸術祭への思い、メインとなる展覧会『2018年の〈方丈記私記〉〜建築家とアーティストによる四畳半の宇宙〜』の見所を本人の言葉で紹介したい。
大地の芸術祭は、無重力、無菌状態の実験室から抜けだそう
北川フラム:2018年の大地の芸術祭の特徴を話すにあたって、まずは大地の芸術祭とは何か、簡単に紹介させてください。
大地の芸術祭は、一言でいうとアーティストがその土地に根ざした作品をつくることにあります。土地、ここでは越後妻有のことですが、気候や植生、文化などさまざまなレイヤーをアーティストが発掘し、そのレイヤーに合わせた作品をつくります。つまり、大地の芸術祭のキャンバスはフラットではなくデコボコです。
一方で20世紀の芸術や美術館は、白地のキャンバスで作品をみせるホワイトキューブ的で、まるで実験室のようだと思っています。真っ白い壁に作品を掲げて、バックグラウンドを極端に排除した均一の場所に作品を置く。無重力無菌状態のところで作品を展示していた訳です。
しかし、21世紀の芸術はこの実験室を飛び出さないといけない。語弊があるかもしれませんが、病原菌の多い場所へと放り出す勇気が必要。そのフィールドが、大地の芸術祭では田舎になる訳です。
いろんなコンテキストがある土地にアーティストを放り出し、彼らにその土地の文脈を読み取ってもらい彼らなりに表現してもらう。それも世界の一流アーティストに。気候のことをテーマにする人もいれば、その植生に関心を示す人、または農作業に目を向ける人も。こうして土地に根ざしたアートが生まれるのです。