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2018.08.07 08:00

スマイルズ 遠山正道「失敗や挫折なんて、全部忘れちゃえばいいんです」


アーティストから学ぶべきこと

今はどんなことでもチャレンジしやすい時代です。私が若いころなんて、そもそも友人同士で夢を語るということ自体があまりありませんでした。高度経済成長からバブル経済の時代まで、日本の主役は経済だった。社会的な大きい目標のためにすべてが捧げられていて、それに沿って受験や就職のレールが敷かれていた。そして成功というものが連続的に常態化していた。そこに個人の夢が入り込む余地はほとんどなかったんです。 


1996年ころ、商社で働いていた時の様子

90年代からでしょうか。経済が主役じゃなくなって、個人の創造性なんて言い出した。さあどうしようかというときに、個人の夢というものがぐっと浮上してきました。せっかく個人が意志を持って夢に進める環境ができたのだから、躊躇していてはもったいない。やりたいことを書き出しておいて、その紙が一歩を踏み出す原動力にできるなら、利用しない手はないですよ。 

アーティストというのはもともと、誰に頼まれたわけでもなく自分の意志でキャンバスに色を置き始めたり、黙々と立体物を造形したりしていく人たち。社会の潮流なんかに惑わされずにやりたいことを貫いているわけで、その意味で貴重な存在です。誰もがアーティストになるべきとは思わないけれど、この時代、アートやアーティストから私たちが学ぶことがたいへん多いのは間違いないですね。
 
若い人に勧めたい本も一冊、挙げておきましょうか。岡本太郎『今日の芸術』です。彼はこの本でアートシーンや自作の解説をするのではなく、生きる構えのようなものを説いています。

例をあげましょう。本の中には、プロ野球観戦のたとえ話が載っています。「プロ野球の試合を観に行って、応援しているチームのホームランを目撃したら爽快な気分になるかもしれないが、それはまやかしである。実は、それによってあなたの心は蝕まれているのだ」と岡本太郎は言います。なぜならそのホームランに、観ているだけのあなたは指一本も加担していないから、と。 

単なる傍観者になって心をごまかしているくらいなら、下手でも草野球をして、空振り三振してみるほうがずっといいというのが岡本太郎の考え。かっこいいじゃないですか。

私は夢というとふわっとしているし、ちょっと大袈裟なので、「企て」と言っています。企てならば失敗してもいい。私自身、企てを追いかけて挫折や失敗はほぼ無い、というかもう忘れちゃった。そのくらいでいいんです。企てを持てる時代に生きている私たちは、堂々と企てをいくつでも掲げて歩き出したほうがいい。老いも若きも、そこに年齢は関係ありません。


遠山正道◎1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。2000年スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、「giraffe」、「PASS THE BATON」「100本のスプーン」を展開。

文=山内宏泰 写真=帆足宗洋

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