さて、冒頭に挙げたありがちな問いも、生命の仕組みに則って考えるとわかりやすくなります。
・退職率は低ければ低い方が良いのか?
勤続年数の長さを誇る組織は、体の細胞の入れ替わりのなさを個人の体が誇っているようなもので、これまで話してきた非連続性の創出ができていないということになります。
特にベンチャーだと、成長する過程で幹部人材やメンバーの入れ替わりが起こることはよくありますが、生命の誕生から成長の過程では、そのステージによって必要な細胞が変わっていくことは自然なことで、逆に必要な細胞が入れ替わらないと成長することができません(すべて入れ替わるというよりは、上記の不易流行のとおり変わらない部分があるという前提です)。
・朝型勤務を推奨すべきか?
最近の遺伝子の研究でも、朝型、夜型に関する遺伝子が明らかにされつつあります。これは実は当然で、集団での生活によって生き残ってきた人類にとって、皆が同じ時間に寝るのはとても危険なことであり、睡眠時間の多様性が遺伝子に刻まれていることは健全なこと。ですので、一律全員に朝型シフトを推奨するのは遺伝子的にかなり不自然ということになります。
・縦割り社会は悪か?
実は生命はとても縦割り社会です。約10億年前に単細胞だった生命が多細胞化してから、細胞は機能を縦割りして分業化することで全体が機能しています。
しかし、現在言われがちな縦割り社会が機能していないこととの違いは、生物においては分業化された自律分散型の細胞同士の中で細胞間ネットワークが極めて精緻に機能しているということです。縦割りの組織構造自体が悪というよりは、細胞間ネットワークの設計の機能不全が悪ということになります。
・職場で男女以外の性を認めるべきか?
お茶の水女子大学が、心が女性であればトランスジェンダーの学生を受け入れるというニュースがあるなど、近年ではよくLGBTについての話題があります。トランスジェンダーは環境要因も寄与するという諸説があり、まだ原因は解明されていませんが、一定程度遺伝子の要因もあると考えられています。
元々は生物に性別はなかったところから性別ができて有性生殖のシステムが生まれたのは、その方が多様な子孫を残せるため、外界の変化に適応するうえでは有利だったという説も考えられています。その進化の背景を考えると、性の多様化は未来の生命の進化の予兆のようなものかもしれないと私は考えています。つまり、考えなしに性の多様性を弾圧することは、これまでの生命自体を否定する自己撞着的な考え方ではないかと思います。
多様性と新陳代謝にフォーカスして書いてみましたが、また機会があればまたいつか全体をまとめたいと思います。
私は生命の起源や仕組みを心底尊敬しており、その世界に思いを馳せると、近視眼的で硬直した世界から解放されるような気持ちになります。ここに書くことで、少しでも皆さまに共有できれば嬉しいです。
連載 : ゲノム解析の女性起業家が考える、私たちの未来
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