生命は非連続性の創出により環境の変化に対応してきた
それでは、生命がなぜ意図的に「非連続性」の創出を行っているかという話になります。
生物は変化しつづける外界の環境に対して、連続的な変化だけではなく、非連続的なジャンプをすることを、生き残る術として持っています。なぜなら、環境の変化の方が、生命の個体の中で連続的に起こりうる範囲の変化を超越しているからです。すべてのモノがエントロピー増大に従うが生命が唯一の逆エントロピーの力を持っていることが要因の一つです。
それでは、生命が何によって非連続性を担保しているかというと「多様性」と「新陳代謝」です。
会社などの組織にとっても多様性が重要であると言われて久しいですが、これも生命としての仕組みを考えると理にかなっています。普段、ゲノム情報を扱っている立場からすると、全く同じゲノムを持つ人は存在せず、本当に多様なものが人類を構成しているんだなと身をもって実感することができます。
実はこの多様性と新陳代謝は似たようなことを言っており、縦軸の非連続性と横軸の非連続性の創出を行っています。図にするとよりわかりやすく、両者は似たような形になります。
新しいものがと古いものが入れ替わっていくという新陳代謝によって、連続的な性質では抜本的に対応できないほど変化し続ける外界に対応しています。違う個体として遺伝子が受け継がれていく生命の仕組みはまさにそのものです。
そのため、種の存続にとっては個体の入れ替わりが必須です。個体の存続にとっては、細胞の入れ替わりが必須です。日本村社会や終身雇用的価値観の中ではあまり議論されませんが、会社の存続にとっても、適切な組織の中の入れ替わりが必要となります。
細胞が定着すればするほど、ヒトは老化していきます。人が定着し過ぎればしすぎるほど、会社や組織は老化していきます。個人の人生にとっても、例えば過去の成功体験だけが定着して新しい経験に入れ替わっていかないほど、個人は老化していきます。
どのような個体、組織、国、世界、環境、全てにおいても、その世界を構成する要素の新陳代謝と多様性による非連続性の創出が、外界が環境が変化する前提における生き残る戦略です。
例えば、細胞で言うと、個体をより良い状態に保つためにに積極的に引き起こされるプログラミングされた細胞死である「アポトーシス」という現象があります。これはまさに、新陳代謝を促すことで非連続性の創出を行い、個体として生き残る方を優先しています。
また、例えばセントラルドグマを構成するRNA(リボ核酸)も、不安定性を担保することによって、合成と分解を常に繰り返し、変化する環境に対して細胞の恒常性を保っています。
江戸時代に松尾芭蕉が「不易流行」と表現しているのも理にかなっており、変化のない本質的なものの中に、新しい流れを取り入れていくという一見矛盾するように見えることが実は必要であると伝えています。