もう一つ、新人たちが必ず教わるのが、「プロとアマの違い」である。「その違いは、セルフプロデュース」と斎藤は言う。
「自分をまわりの人にどう見てもらうようにするか。これもリーダーシップ論の一つです」
斎藤自身が日本にはなかった「ファミリー」と「言葉」に気づいたのは、ドジャースとマイナー契約したばかりの頃だった。球団の日本人スタッフが、「隆、何か困ったことはないか? 大丈夫か」と声をかけてきたという。そのとき、「いやいや、俺なんて別にいいですよ」と言うと、スタッフは怒りだした。
「なぜ、そんなことを言うんだよ!」。「だって、俺はマイナー契約だし、いつクビを切られるかわからないし」。スタッフは「もう二度とそんなことを言うのはやめてくれ」と言い出した。
「俺たちはみんなをサポートするためにいるんだ。やれることは精一杯やる。そんなことを言われたら、何もできない。わからないことがあったら、何でも聞いてくれよ!」と。斎藤が振り返る。
「ロッカーの前で泣きそうになりました。日本にいるとき、そんな言葉をかけられたことなどなかったのです」
言葉のやりとり、選手の性格、ファミリーという概念、リーダーシップ教育……。こうした斎藤の話を聞いていると、そっくりそのまま当てはまる有名な実験を思い出す。「生産性は人間関係で決まる」と発見した、経営学者メイヨーによる1924年の「ホーソン実験」だ。
工場労働者の作業能率は、報奨や環境ではなく、仲間意識、集団内の規範、みんなに存在が認められた集団という「枠組み」(=ファミリー)に影響される。「グループ・ダイナミクス」と呼ばれる研究で、最強のチームは管理型ではなく、お互いの存在価値を認めあう状態だという経営学の王道である。
45歳で球団経営の修業を始めた斎藤は、17年、パドレスの球団本部・環太平洋顧問に就任した。GMに助言をする立場である。
スカウトが拾ってきたディテールと、ご自分が優勝したときのチームの総合力はつながると想像しますか? 斎藤に聞くと、彼はこう答えた。
「しますね。優勝するチームの黄金比が見つかりそうな感覚をいまもっています。なので、ティーチングの本を読み漁っているところなんですよ」
Takashi Saito◎1970年、宮城県仙台市生まれ。東北福祉大学から1991年ドラフト1位で大洋ホエールズへ入団。先発投手として98年の日本一にも大きく貢献した。撮影場所は吉本興業。よしもとクリエイティブ・エージェンシーはメジャーリーガーのエージェント業務を行うなど、国内外の多数のアスリートを抱えている。