メジャーの組織づくりも若手の育成も、「言葉」へのこだわりに始まる。
「アメリカではロッカールームではなく、必ずクラブハウスと呼びます」と、斎藤は言う。「俺たちは野球チームという一つのファミリーだという考え方です。ロッカールームは着替えや貴重品を入れる場所ですが、クラブハウスはテレビやソファがあり、食事をして、そしてユニフォームに着替えたら俺たちは戦う集団になるぞ、という“家”なんです」
グラウンドに出たら、全員がリーダーだという考え方から、マイナーリーグにいるときにリーダーシップ教育が施される。
「日本の場合、2・6・2や1・8・1の法則でいう中間をつくろうとしている印象がありました。しかし、メジャー球団は傘下に6〜7段階のマイナーチームをもち、1000人近いプレーヤーがいます。中間より、1や2のトップ選手を毎年どうつくるか、という考え方です」
シーズンオフにマイナーチームの有望選手がパドレスの本拠地ペトコパークに集められ、強化合宿が3日間行われる。リーダーシップのプログラムでは、スター選手の発言を編集した映像が流される。例えば、ファンから「ザ・キャプテン」と呼ばれたヤンキースの元主将、デレク・ジーターのこんな発言だ。
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周囲に目を光らせて、学び取れ、というものだ。他にもスーパーボウルでMVPに輝いたNFLのトム・ブレイディが説く「謙虚さ」など、数種類を見せる。そして、講師が選手たちに問う。
「お前たちはどのリーダーと同じタイプだ? あるいは誰に共感できる?」
必ず一人ひとりに発言をさせて、細かく理由を語らせる。「与えて終わらない」のがミソだ。
「トンチンカンなことを言う者もいます。でも、それでいいんです。まずは自分で発言して、そこから討論が生まれます。球団側はこのときの発言から、将来のために選手をタイプ分けして把握します」
ぼんやりとしたリーダー像を、言葉に変換させて発言させる。思考の言語化によって、考え方がより深まり、将来像がシャープになっていく。
このプログラムでは、熱心にメモをとる選手もいるし、「なぜ、ミーティングばかりやるんだ。いい加減にしてくれ」と怒る選手もいるという。怒る者には、理路整然と「では、パドレスの方針を理解したくないとみなされるぞ」と伝える。
また、日米の組織運営の違いは、「時間」の考え方の違いでもある。日本には2軍と3軍があり、高卒ルーキーの育成と、1軍の控えとして待機中の選手が一緒になっている。一方、アメリカの6から7段階に細分化されたマイナー組織は、段階を踏んで教育が行える組織づくりとなっている。
「例えば、打たれた投手が、どういう対応をとるか。それをコーチが見極める。失敗の時間が次の成長につながり、教育になる。打たれても、見てあげる時間がある。それが許される組織の大きさがあり、運営が体系化されています」