ゲイレン・ディリジェンス代表のホーク。NYCのコンサル会社での企業調査、リスクコンサルなどのキャリアを経て、投資に関わる人物調査のデュー・デリジェンス事業で起業。
ホークは、移行プロセスの只中にある米国の大麻業界の現状を理解する要素として、ふたつの切り口について言及する。
ひとつは、米国の国自体としては、大麻は非合法であるという点だ。現在、州レベルでの大麻使用の合法化が進むものの、連邦レベルでは、大麻はヘロインと同じ「スケジュール1」の規制薬物に指定され、使用は非合法である。
連邦政府が大麻の医薬的効能を認めていないため、その研究は遅々として進まない。栽培から販売まで、同一州内で完結しなくてはならないため、医療用大麻を処方された患者のモビリティを限定してしまう。銀行などは連邦政府の規制下にあるため、関連事業者がバンキングや資金調達といった金融サービスにアクセスしづらいといった課題もある。
もうひとつは、非合法の現状において無視できないブラックマーケットの存在である。人物調査において、一般的には、前科がある人物に対してはレッドフラグがたつが、大麻業界に関していうと、必ずしも前科がマイナス要素にはなりきらない。例えば、ある大麻業界関係者の人物調査において、「大麻所持により起訴」という記録が見つかっても、業界経験というプラスの要素となる可能性もあるからだ。
新たな市場機会をめぐる闘争
大麻の合法化は、政府にとっては、規制管理による組織犯罪防止や社会秩序の維持といったことのほかに、税収や雇用拡大といったメリットがある。
起業家や投資家にとっては、新たな市場機会であり(大麻業界の数字を追うBDS Analyticsによると、2017年の米国での業界売上は90億ドル=約1000億円)、てんかん発作や不眠症といった病状を持つ患者にとっては、自らが抱える大きな課題解決の代替案となる。
「(大麻所持などに関する)起訴歴に関係なく、善良な人々には投資がいくようにすること。犯罪歴がないといった理由だけで、(ありがちな)白人男性だけが業界を牛耳って、利益を得るというような構造の業界にならないようにすること。つまり、偏見ではなく、正しい知見に基づいたフェアな投資判断が行われるようにしたい」とホークは自らの事業の存在意義を強調した。
過渡期だからこその事業機会を見出したのは、ホークが率いるゲイレン・ディリジェンスだけではないが、なかには近視眼的なスタートアップもある。「大麻業界に特化」という打ち出しだけで、それ自体には革新性がない、もしくは業界自体に特化する必要性がないような事業は、持続性に欠けるとホークは指摘する。
現状、業界の不透明性や動向の不確実性に起因して、大麻業界そのものよりも、ITソリューションやパッケージなどといった付属的事業のほうが、投資家の食指を動かしているようだ。
例えば、ビットコインを使った大麻取引に関するサービスなどは、連邦政府の規制下にある金融サービスにアクセスできない事業者向けに生まれたものだが、連邦レベルでの大麻の合法化によって、このようなサービスは不要になる可能性も高い。
しかしながら、ブロックチェーン技術自体は業界との親和性が高そうだ。IBMは昨年11月、カナダのブリティッシュコロンビア州向けの提案として発表した報告書では、種の栽培から最終売買に至るまでのサプライチェーン管理において、ブロックチェーン技術の活用を提案している。政府は法整備だけでなく、規制のための適切な技術導入の検討も必要だ。