キャリア・教育

2018.06.18 18:00

サッカーもビジネスも同じ 新興国のクラブ経営から学ぶ「プロ意識」の育て方

ナイジェリア、カンボジアのサッカークラブ経営から学ぶこと

ナイジェリア、カンボジアのサッカークラブ経営から学ぶこと

先日開幕した2018 FIFAワールドカップロシア大会。開催地であるロシアの大勝から始まり、優勝候補との呼び声高いブラジルやドイツが初戦から苦戦を強いられるなど、刺激的な戦いが連日続いている。結果を左右するのは、当然ながら選手だけでなく、監督やスタッフ、フロントなどチームに関わるすべての人達によって決定される。特に人材育成やマネジメント、組織づくりの観点からは、ビジネスシーンでもサッカーの事例をもとに語られることは少なくない。


カンボジアのサッカークラブを指揮する、日本人をご存知だろうか。加藤明拓は、組織・人事のコンサルティング企業に勤めた後、2014年にブランド戦略・組織戦略コンサルティング事業で起業。2015年にカンボジアのサッカークラブ「カンボジアタイガーFC」を、2016年にナイジェリアの「イガンムFC」を買収。現在はオーナーとして活動している。しかもクラブを所有するだけでなく、ファンサービスや選手の指導など、現場にも積極的に参加。ホームゲームの観客はみるみる増加し、オーナーである加藤にも注目が集まっている。

日本のスポーツ組織の問題が次々明るみに出る昨今。新興国で結果を出す、加藤のマネジメントとは。

「サッカー」ではなく「クラブ」を観る人を増やす


フォワード CEO加藤明拓

━━まず、加藤様がオーナーをされているカンボジアとナイジェリアのサッカークラブの現状を教えてください。

2015年にカンボジアのサッカークラブを買収したカンボジアタイガーは、現在「アンコールタイガー」に改名して活動しています。順位としては3〜6位を程度が続いています。オーナーのほとんどがお金持ちの財閥・政治家ばかりの中で、うちは決して多くない資金の中で頑張っている状況で、観客動員数もカンボジアでNo.1となっています。

これは、クラブの本拠地をアンコールワットがあるシェリムアップに移籍したから。シェリムアップは年間で外国人が200万人、国内でも300万人が訪れる観光都市。アンコールワットのほかにも色々なものを目にしたい観光客も多く、そうした人々にサッカー観戦を楽しんでもらえればと思っています。

カンボジアでは、サッカークラブのほぼ全てが首都プノンペンにしかないので、ホームクラブを応援するという考えがあまりない。プノンペンでは特定のクラブを応援するのではなく、サッカーという競技を観るためにスタジアムに足を運ぶ人がほとんどでした。

ただ現在は「アンコールタイガーのファン」として観戦に来る人が少しずつ増えています。カンボジアでの1試合あたりの来場者数は平均300〜700人程度ですが、アンコールタイガーのホーム試合では3000人近く。しかも、プノンペンでは半数以上が「サッカー観戦が目的」の人々ですが、うちではほとんどの人がアンコールタイガーを応援するために来場してくれています。ファンがつくことは、選手のプロ意識を育む上でも大きくプラスです。

ナイジェリアのイガンムFCは、創設者のエバエロ・アバヨミから一緒にやりたいと言われて、いまは共同オーナーを務めています。

━━その中で加藤さんはどのような活動をされているのでしょうか。オーナーという立場にありながら、選手の指導も行なっていると聞きます。

まずは、クラブのブランディングです。日本人がクラブオーナーを務めるのはカンボジアでは珍しいことなので、オーナーである僕が積極的に表に出て、クラブのアピールをするようにしているんです。具体的には、ホームゲームで雨の中でも来場するサポーター達を握手で出迎えたり、ハーフタイムのマイクパフォーマンスをしたり、試合後にファンと一緒に写真を撮ったりするなど。他クラブのオーナーはお金持ちでVIP席の奥にいるか、表に出てくることはないので、かなり特徴的だと思います。

こうした活動のおかげか、空港でファンの人に声をかけられることも増えてきていて。とにかくまずはクラブの認知度・好意度を高めるために選手・監督はもちろん、僕自身もできるだけメディアに取り上げられることを行っていて、日々、知名度や人気度が向上していることを感じます。

また、もちろん競技的な指導は監督に任せていますが、それとは別に、シーズンの初めにクラブのミッション・ビジョン・バリュー共有のワークショップやカンボジアで選手たちと話すたびにプロとしてのメンタリティやクラブのあり方などビジョン面を語っています。カンボジア人は上下の意識が強く、組織上立場が上の相手と話すときは緊張することもあるので、練習を見に行くときはボール拾いをしたり、なるべく声をかけたり、普段から僕がフレンドリーな関係を築くようにしています。
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文=野口直希

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