宮城治男 / ETIC.代表理事
──脱・若者の奪い合い 地域の強みを交換しよう!
昨年、あるイベントを契機に「南南同盟」という言葉が生まれました。宮崎県日南市と島根県雲南市による、相互連携の取組みです。
IT企業のオフィス誘致など、日本随一の商店街復興ノウハウを持つ日南市。一方、高齢化率が国全体の平均より25年先をいっている雲南市は、看護師が病院外の地域のコミュニティに入っていき、見守りや巡回で健康的なまちづくりに貢献しています。こうした「コミュニティナース」などのソーシャルビジネスの進む、医療福祉の先進地域です。
互いに独自の強みを持つ両市では、首長やキーパーソンが地域を行き来しながら、商店街復興と医療福祉という異分野のノウハウを学び合っています。
お互いの得意分野を学び合って、「強みの交換」をすることで、地域は互いに進化します。いま、やる気のある若者に移住してもらおうとする、地域間競争もありますが、私が提案するのは競争とは逆です。人材の奪い合いではなく、魅力の高め合い。自治体が横で繋がり、学び合う。一緒に進化し、新たな働き方などの価値観をともに広げていくことを推奨しています。
ETIC.では「ローカルベンチャー推進協議会」事務局としてその活動をサポートしています。ローカルベンチャーとは、地域の資源を活かし、これまでにない視点で地域に新たな経済を生み出す事業者です。協議会は、ローカルベンチャーの育成を目指し、2016年に発足しました。
現在は、北海道下川町、厚真町、岩手県釜石市、宮城県気仙沼市、石巻市、石川県七尾市、岡山県西粟倉村、島根県雲南市、徳島県上勝町、宮崎県日南市という人口16万人の都市から、1500人の村まで10の自治体が参画しています。
地域の魅力の大きな点は、自分が関われる余白があること。経済合理性に従って、効率化された都市には、稼げる仕事はあっても、新しいことを仕掛けられる「すき間」がない。
宮城県石巻市では、合同会社巻組の代表社員・渡邊享子氏が「なぞベン」と呼ぶような、経済合理性とは全く違う価値基準で、街を楽しみながら、事業を起こしています。そして、それを地域の方々が支援するという好循環が生まれつつあります。
30歳の渡邊氏も、資産価値の低下した古民家を高齢の大家から借り上げて、リノベーションし、移住してきた起業家や外国人に提供するなど、地域の余白を存分に活用する起業家です。彼女のような、意欲的な若者たちにとっては、中山間地域で放置された森林や、市街地の空き家は、社会課題ではなく、事業に使える魅力的な資源なのです。
地域に入っていく動機が変化しているように、地域とお金の関係も変わっています。岡山県西粟倉村では、2017年末から、自治体とエーゼロ株式会社が共同で、ICO(Initial Coin Offering)導入の実験を開始しました。ブロックチェーン上でトークンを発行する対価として、投資家から得た仮想通貨が、人口約1500人の小さな村の新たな財源となる。そんな未来が、すぐそこまで来ています。
また、ローカルベンチャーは、地域に新しい経済を生み出す「起点」となる存在です。石巻には、三陸の若手漁師が集まった一般社団法人フィッシャーマンズジャパンという集団があります。前述の「なぞベン」ともいえる、ユニークなローカルベンチャーです。17年に企画した現役の漁師がモーニングコールをしてくれるサービス「FISHERMAN CALL」は、全国的に話題になりました。彼らはアイデアの力で高めたブランド価値を、商品開発や飲食事業に活用し、水産業という地場の一次産業を変えました。
そうした、創業間もないローカルベンチャーの経済規模自体は大きくありません。売上規模は5,000万円以下の小規模事業者がほとんどです。しかし、ローカルベンチャーの挑戦に「うちの地域でも、こんなことができるのか!」と、地元企業の跡継ぎ社長が感化され、新規事業をはじめる。そうすれば、地域の経済・雇用に対するインパクトは非常に大きいでしょう。
人が挑戦し、元気になることは、強制できないし、お金でも買えません。しかし、どこかに意思があれば、それは自ずと伝染します。まず首長や職員がベンチャーマインドを持つことが、変化の起点になりえます。
かつてのように「仕方なく帰る場所」ではなく、積極的に働きたい、挑戦できる場所としての「地域」が生まれてきています。そんな地域に住みたい、働きたい若者たちの潜在マーケットは無限広がっていると、私は思います。挑戦する、魅力ある地域が増えることで、次世代の価値観も、行動も大きく変わっていく。そんな時代が到来しています。