山野智久 / アソビュー社長「熱意ある地方創生ベンチャー連合」代表理事
──観光は総合産業 レジャー消費で経済圏をつくる
「地域経済」のひとつに、地域のなかでの消費によって支えられている経済があります。人口が減少すると地域で使われるお金が減っていくわけですから、単純に、地域を商圏にしている経済も縮小してしまいます。
縮小してしまったぶんを補うひとつの方法として有益なのが、「観光」。外から人を呼んで定住してもらうことよりも、一時的でもいいから人を呼び、地域の中で消費してもらうほうが現実的だからです。
観光は、実は総合産業。たとえば、レジャー目的で外から人が訪れて、地域のなかの宿泊施設を利用するとします。そこで地の野菜や地の魚などを食べれば、地元の農業や漁業が豊かになる。食事の際の割り箸をはじめ、消費財も地域で作っているものを利用すれば、製造業者が潤いますね。さらに宿泊施設からの移動の際にバスやタクシーに乗れば、交通機関も収益が増える。
群馬県のみなかみ温泉郷は、団体客で賑わう首都圏の奥座敷として繁栄し、バブル崩壊と共に観光客が減少していきました。しかし、ある「よそ者」の登場によって、10万人を超える観光客を呼び寄せる新たな観光の成功事例として注目されるようになりました。その観光コンテンツが「ラフティング」でした。
立役者は、ネイチャー・ナビゲーター代表の竪村浩一氏。ニュージーランドでラフティングのガイド技術を学んだのちに帰国し、日本での普及に貢献。彼は「利根川上流部は、国内屈指、世界でも有数の激流ラフティングコース」と銘打ち、利根川をレジャースポットとして盛り上げようとしていったのです。
みなかみの地で古くから宿泊業を営む人々に話を聞いてみると、当初、竪村氏は「よそ者」の「若者」であり、ゴムボートに乗っている「バカ者」にしか見えなかったそう。しかし、地元の宿泊施設の先代の女将やオーナーが、年々温泉客が目減りしていく状況を前にして、竪村氏と手を組みはじめ、温泉宿泊とラフティングのセットプランなどを積極的に展開していった。
その輪が徐々に広がっていき、いまではアウトドアガイドを営む会社を10社以上巻き込み、みなかみ町全体の観光を振興させていったのです。
観光から商圏を生み出すもう一つのメリットは、コストゼロで始められるということ。堅村氏が利根川という地域にもともとある資源を観光スポットにしたように、すでにあるものを使い、費用をかけずに人を呼び寄せることができるからです。
特に最近では観光の概念も広がっていて、長野県にある地獄谷野猿公苑で温泉につかる猿が外国人から「スノーモンキー」といってもてはやされているほど、なんでも観光資源になりうるのです。