前田亮斗 / デロイトトーマツベンチャーサポート地域イノベーションリーダー
──成功の鍵は「地方豪族」 地域でエコシステムを形成する
直近1年で顕著なのは、新しいテクノロジーを社会に実装するときに、ベンチャーが地域の自治体や中核企業と手を組むケースが増えてきたことです。現時点で、我々がきっかけとなったものだけでも、20件くらいの事例があります。
その源流は、サンフランシスコが自治体とスタートアップの協働プロジェクトを立て始めたこと。そのムーブメントがオランダをはじめヨーロッパへと広がり、日本でも一昨年あたりから浸透し始めました。
日本でこの取り組みを実施する際、その駆動役として今後期待されるのが「地方豪族」です。地方豪族とは、言い換えれば地域の中心人物。地域でのネットワークも、力も、情報も持っているからです。
私は地方豪族を「オーガナイザー」「コーディネーター」と呼んでいます。自治体やベンチャーが組んで社会実装をしようというとき、最初にこのキーパーソンとつながれば、一気に地域全体をプロジェクトに巻き込むことに成功しますし、テクノロジーが地域に浸透し、持続的な形になりやすい。
ベンチャーがテクノロジーを実装する場所として地域が選ばれる理由は、主に二つあります。ひとつは、東京で実装実験をしようとするとステークホルダーが多すぎて、連携に時間がかかりすぎてしまうこと。それに比べて地域の場合は自治体を押さえればすぐに連携が実現できるため、プロジェクトのスピード感が違うのです。
もうひとつは、人や交通の量の違いです。ドローンのようなテクノロジーを屋外で動かして実験をしてみるにしても、東京は人が多すぎます。そのため人が少ない地域でテストをするのです。
こうした流れは政府も推奨しています。たとえば、総務省は「StartupXAct」(スタートアップエグザクト)を各地域で実施。これは、地方公共団体が抱える課題をベンチャー企業が持っているICTで解決することを目的に、自治体とベンチャーをマッチングさせるプロジェクトです。地域がもつ課題を解決でき、ベンチャーは社会実装の機会が得られる。相互にメリットのある取り組みなのです。
さらに、ベンチャーと自治体による地域課題解決の動きのなかで、注目されている分野が「観光」です。インバウンドが伸び続ける今、「攻めるべきは観光」と考える自治体が増えています。こうした声が多数あがってきたため、観光庁からも支援を受け、当法人も、ベンチャー企業が自治体に自社のサービスを紹介する「Public Pitch」を全国各地で開催しています。
少子高齢化で人口減少が続く日本は「課題先進国」と言われて久しいですが、すでに焦点は「課題解決」のその先の、「課題解決の成功例の輸出」に移ってきています。