旧知の仲の2人が、松嶋氏の新刊『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)を肴に、俯瞰した視点から現在の日本のビジネス界の問題点について語り合った。何が悪くて、どうしたら良くなるか。そこには“ルーツ”に遡る独自の方法論があった。
松嶋:よく会うのに、こうして対談するのは初めてですね。何から話しましょうか?
岡島:改めてイノベーションについて話したいと思っています。イノベーションは昨今、どの日本企業でも求められていますが、気をつけないと単なるプレゼンテーションに終わってしまう。
松嶋:岡島さんは大小さまざまな企業を面倒みていますよね。どれくらいあるんですか?
岡島:経営者でいうと200人くらいかな。時価総額3兆円くらいの大企業からベンチャーまで、規模はさまざまですね。
松嶋:小さい会社にはアイデアを活かしてほしいし、そのアイデアを伸ばしていくためにどう組織を作っていくか……岡島さんはそういう編集能力が高いですよね。そのための「場」と「間」の作り方もとてもうまい。「経営者のかかりつけ医」って言われているけど、実は目利きの、キュレーションの割合が多いのかな、と思いました。
岡島:たしかに、四半世紀ほどかけて、粒度高く3万人ぐらいを見てきたから、目利き力は相当鍛えられているとは思う。“数”だけでなく、“深さ”においても。各経営者の子供の頃まで遡って話を聞いて、自分が彼らに憑依するくらい細かく見ているから(笑)。
松嶋:人の“ルーツ”にまでたどり着いている。会話をしながらそこまでいくから、その人の発想を引き出せるんじゃないかな。
岡島:そうですね。“何かあったら原点に戻る”ってことをしないと本質がズレちゃうから。表面だけなぞると、見た目ばかりの話になる。だから経営者を見るときは「この人はなにで形成されているのか」って成分表を見るような感じで向き合うことにしています。
松嶋:その人の目線にまで入り込む作業をまずやるってことですね?
岡島:そう、俯瞰しながらも完全に憑依する(笑)。これは、松嶋さんが食材や料理の原点に遡る発想法にすごく近いと思う。「この人の不安やコンプレックスはどこから来るのかな」って幼少期まで遡って興味を持っちゃう。人フェチなんだよね。だから天職だと思います。
今はグローバルでも、何か変化が出てきたときに“その時だけのアンサー”を渡してもダメっていう考えになって、コンサルタントが経営者に寄り添うスタイルに変わってきています。
変化に強い人は“アウェー”を知ってる
松嶋:編集能力が高いってことは料理する能力が高いってことなんだよね。例えば海外に行ってた時期に和食を作ろうとかした経験とかある?
岡島:ある! アメリカ留学時代、イタリア人の魚屋さんと仲良くなって、家で手巻き寿司やるときは全部おろしてもらっていた。
その頃の気づきはもう一つあって、アウェーに行ってこそ自分のことが分かるというか、無意識のバイアスを外すというか……「あ、手巻き寿司はトロじゃなくてロブスターでもいいんだ」みたいな(笑)。“当たり前と思っている枠を外す”機会があったのは、自分にとってチャンスだったかな。
あとは、父の実家が留学生受け入れボランティアをやっていたので、子供のころから外国人に囲まれるある意味アウェーな環境だった。だから変化適用型になったんだと思います。
松嶋:海外で和食を作りたいと思っても、すべての食材は手に入らない。そこでどうにかしようという発想が、日々の生活の中から身についたのかな。そういう“違う環境”を体験してない人たちは、切り替えがあまりうまくないなって思う。