ボランティアが殺到 世界一のシェフが手がける「無料レストラン」

「レフェットリオ(Refettorio) 」創設者のマッシモ・ボットゥーラシェフ


このパリのレフェットリオは今年3月にオープンしたが、現在イタリアのミラノ、モデナ、ボローニャ、ナポリ、リオデジャネイロ、ロンドンで展開する同じコンセプトの店舗を合わせると、7店舗目となる。

マッシモがこのアイデアを思いついたのは、2015年ミラノ万博に遡る。万博のテーマが、「地球に食料を、生命にエネルギーを(Feeding The Planet, Energy For Life)」であったことから着想を得た。

国際連合食糧農業機関の算定によると、今世界では、年間13億トンのフードロスが出ており、8億1500万人が飢餓に苦しんでいる。廃棄されてしまう食料の全てを使えば、飢餓に苦しむ人をなくすことができるのだ。それを、シェフらしいやり方でできないか、というのがマッシモの考えだ。

「地球はこれ以上の人数を賄う食材を生み出せないから、食料廃棄ををなくす必要がある。スーパーマーケットから届いた食材は、ありきたりに見えるかもしれない。けれど、私たちシェフにはクリエイティビティという力がある。目の前の食材という“見えるもの”を使って、“見えないもの”を生み出す力がね」


この日のメインディッシュ、鴨のコンフィ

その「見えないもの」とはなんだろう。

実際にボランティアをして感じたことは、多くの人が幸せそうに食卓を囲んでいるということだった。質素ながらもきちんとした身なりをして、サービスのスタッフにも、受付のレセプショニストにも、お礼を言って帰っていく。筆者の担当した男性も、離席していたレセプショニストが戻るまで待ち、丁寧にお礼を言って立ち去った。

きちんと扱ってもらえることへの心地よさや食卓に込められたコミュニケーション。ただ飢えを満たす何かではない、とても大切なものも受け取っているように見えた。

マッシモは、「私たちの祖母の代は、硬くなってしまったパンをクルトンにしたり、スープと一緒に煮込むなど、食材を無駄にせず最後まで使い切っていた。それと同じように、廃棄されてしまうはずの食材を丁寧に扱い、美味しい料理を生み出すことで、食に尊厳を取り戻す」と語る。

社会が忙しくなっていく中で、私たちはどうしてもたくさんの情報を処理しなくてはならなくなった。その結果、関心をなくしたり、おざなりにしてしまっている物事が少なくない。コストを考え、効率を考えた先に、失われたものとは何か? 「尊厳を取り戻す」というのは、食材だけではない。きちんと扱い、扱われる、という相互関係によって、人も尊厳を取り戻す必要があるのではないか。

それは、食事客だけではない。参加したボランティアたちも、この活動が自分自身を癒す行為であると語っていたのが印象的だった。


ボランティアの後、希望者はキャンセル分の料理を分け合って食べる

冒頭のニコラスは、「仕事で数字ばかり見ている毎日だが、ここには、本当の人と人とのふれあいがある」とその魅力を語る。4回目の参加だというダニエラは、「美しい建物の中でみんなが幸せそうに食事をしているこの空気が好き。自分が浄化された気持ちになる」のだという。
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文・写真=仲山今日子

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