ジェンセン教授は、医師であり教授であると同時に、男の子2人を育てたシングルマザーで、髪や服装などで不可思議な行動をとる10代の子供たちをどう理解し、対応すればよいか、世の親と同じように困ったそうです。
そこで、ほとんど研究が進んでおらず、予算も割かれていなかった10代の脳に注目したのだそう。気分屋で衝動的、親の思い通りにならない“異星人”脳は、どうなっているのか、ジェンセン教授の話から、いくつかエッセンスを紹介しましょう。
興奮が強く、抑制が弱い
日本では「成人年齢」の18歳への引き下げが決まりました。10代は成人にあと一歩の時期で、大学入学時には脳はすでにでき上がっている、と考えている方も多いかもしれません。
ところが、脳は20代半ばから後半になるまでは完成しません。簡単に言うと、脳の膨大な数の部品は、少しずつ「つながり」をつくり、10代半ばではまだまだ、20歳でもまだその「つながり」は不足しているのです。
とくに、ヒトの脳の4割以上を占め、状況を判断し、行動を検討し、意思決定する前頭葉は、「つながり」ができるのが最も遅い。配線なくして脳は働きません。ちなみに、相対性理論のアインシュタイン博士の脳は、標準よりも軽かったのですが、ニューロン結合=つながりはかなり多かったそうです。
また、「抑制」の働きは、脳が完成するまでに少しずつ上昇していきます。一方、「興奮」は生まれてからすぐに上昇して子供の頃にピークを迎えます。
興奮性のシグナルは脳の経路をつなぎ、その「つながり」を強くする、つまり興奮は脳の成長の原動力なのです。記憶で鍵となる海馬は、とくに10代では興奮状態にあります。10代では、海馬の隣りの偏桃体(性や感情行動に関わり、怒りをかきたてたり抑えたりする)は未成熟で、過剰に活発です。
つまり、10代の脳は、「つながり」不足で、抑制が弱く、興奮が強いのです。この時期は、感情の起伏が激しく、大人から見ると、不可思議な行動をしたり、いけないことに気をひかれたり……理解するのが難しくて当たり前なのです。
10代は、学習や能力を高めるには人生で最高の黄金期であり、また一方で、脳が一生続くようなダメージを受けやすい時期でもあります。パワフルかつ脆弱な10代の脳は、よい種も悪い種も深く根付きます。その後の人生にわたり、良くも悪くも大きく左右する重要な時期なのです。