奥本:GDPRはさておき、本質的にプライバシー問題は個人によって見解が分かれる問題ではある。
渡辺:シリコンバレーはリベラルで管理されることを嫌う人が多くて、しかも個人情報をどれだけ悪用できるか知っている人も多いから、プライバシーがものすごく重要だっていう人が多いんだけど、私はあまりそう思っていない。もちろんそれで犯罪に巻き込まれたりしたら嫌なんだけど、パーソナライズされた広告が出るくらいだったら別にいいんじゃないって思ってしまう。
奥本:購買意欲に関するデータが企業に渡って、その結果、広告がパーソナライズされることに関しては特に抵抗がないのだけど、たとえば健康データがビジネスに使われることにはすごく抵抗がある。
渡辺:70年代にカリフォルニアを恐怖のどん底に陥れたシリアルキラーが、最近になって親戚のDNAを辿って見つかって逮捕されるという衝撃的な出来事が全米でニュースになった。
奥本:イギリスのBBCでもニュースになっていた。しかも利用されたのは民間の無料DNAサイトだったのよね。
渡辺:「DNAをアップロードすると自分の祖先が世界のどこから来たか分析できて、プラスで親戚を探せる」というGEDmatchという地味なサイト。そこに警察が一個人として犯人のDNAをアップして、そこで見つけた遠い親戚から探し出したという、犯罪者から見たら恐ろしい手法だったんだよね。
奥本:それって、自分が会ったこともない遠い親戚がDNA情報を開示してれば、自分まで辿られてしまうということね。犯人逮捕というのはいい使い方なわけだけれど、DNA情報が健康保険の加入資格とか保険料の計算に使われたらいやじゃない?
渡辺:1990年代にガタカという映画があって、DNAで就職も決まってしまうという近未来のSFなんだけど、そういうことだってありえる。
奥本:DNAが適性検査に使われてしまうわけね。
渡辺:どこまでが「適性検査」でどこからが「差別」なのかは難しい問題だけど、自分では変えようがない遺伝的なことで差別を受けるようなことがないように、法律で規制すべきだとは思ってる。
奥本:本当にそうあってほしいと思う。
渡辺:DNAは良い使い方もあるから、さじ加減は難しいところではあるんだよね。たとえば、超正統派ユダヤ人の間では、結婚の前にお互いのDNAをチェックして彼らの間で生じやすい遺伝病の発現を防ぐ仕組みが1980年代からある。例えば「Dor Yeshorim」というプラットフォームでは、10代半ばでDNA情報を登録しておいて、プロポーズする前に確認するんだけど、もう40万人以上のデータがある。
奥本:それはまた意外にハイテクな……。
渡辺:超正統派ユダヤ人は、彼らの間でしか結婚しないし中絶も禁止なので、かなり切実な問題だからね。