トランプ政権で短期決戦を強硬に主張していたのは、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)だった。北朝鮮はボルトン氏を「拒否感がある」と非難。さらに攻撃の対象をペンス副大統領にまで拡大したことから、トランプ氏は5月24日(日本時間25日深夜)、6月12日に決まっていた首脳会談の中止を通告した。
筆者はこのとき泊まり勤務で、ホワイトハウスが会談中止を記した正恩氏宛てのトランプ氏の書簡を突然公表したことで、慌てて対応に追われた。
驚かされたのは、一夜明けての北朝鮮側の反応だった。「思いがけないことで、極めて遺憾」「いつでも、いかなる方式であれ、向かい合って問題を解決する用意がある」──などと、まるで懇願するように首脳会談の開催を求めてきた。
その後、米朝がシンガポール、板門店、ニューヨークの3か所で高官協議を加速させたことは周知の通りだ。トランプ氏に宛てた正恩氏の書簡もホワイトハウスに届けられた。
粘り勝ちをしたのはどちらか
交渉の途中で、突然席を立つやり方は、北朝鮮の常套手段として知られている。トランプ氏は、今回、相手のお株を奪って、一方的に「中止」を宣言して、世界の度肝を抜いた。トランプ氏はその後、主導権を握る形で、6月12日の首脳会談を再設定する。
ところで、最終的に粘り勝ちをしたのはどちらなのだろうか。米側が掲げた「短期間の非核化」という看板は下ろされ、制裁解除はないという一線は守られているものの、トランプ氏は「最大圧力という言葉は使いたくない」と語った。
正恩氏にとっては、朝鮮戦争が終結して、平和協定を締結するだけでも「大成果」となる。経済制裁をめぐっても、北朝鮮の真の狙いは、中国が締め付けを緩めることである。
トランプ氏は11月に中間選挙を控え、その1年後には、2020年の大統領選に対応しなくてはならない。12日の首脳会談で、大々的に発表されるであろう成果(合意)が、「プロセスの開始」(トランプ氏)として位置づけられるのであれば、歴代大統領が繰り返してきたように、その後は実務者協議が延々と続くだけで、そのまま時間切れになってしまう恐れもある。
連載:ニュースワイヤーの一本
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