4. そもそも学校の定義、とは
学習指導要領と教職免許と並んで、柔軟な運用を考えてみるべきだと思うのが、学校設置基準である。例えば、文部科学省令第二十号「高等学校設置基準」にはこうある。
以前、キャンパスを持たないミネルヴァ大学の事例を紹介したが、MOOCSやカーンアカデミーのような通信制の学校に端を発して、教育のIT化がここまで進んでいる今日、学校の設備要件を平米数単位で細かく定めることに、どれほどの意味があるのかと悩んでしまう。
もちろん、「その他の教育上支障がない場合は、この限りでない」とあり、自治体によっては柔軟な対応をしているところもあるのは確かである。が、特別免許の事例と同様、初等中等教育(いわゆる小中高校)の場合は、例外が認められるか否かは都道府県の判断に委ねられている。このため、実際に上記の条件を満たしていない学校がどれほどあるかといえば、全国でも数えられるほどなのではないだろうか。
国によって事情は異なるため単純比較はできないが、オランダなどでは、生徒数が一定水準を満たせば、ニーズがある学校と判断され、学校の認可が下りるような国もあると聞いている。
そこまでドラスティックな条件緩和が日本において現実的かどうかはわからないが、少なくとも学校の施設や設備は、生徒や保護者が学校を判断する際の条件の一つに過ぎないと私は考える。特に私学においては、施設や設備が整っていないゆえに生徒が集まらなければ(繰り返しになるが)自らの経営破綻のリスクを負うわけで、少なくとも私学に関してこうした制約を取り払うことは検討に値するのではないだろうか。
5. 日本の教育界に、最も足りないもの
最後に大それたタイトルを掲げてしまったが、やはりキーワードは「学校の個性」そして「選択肢の多様性」にあるのではないかと考える。
ちょうど先日、日本経済新聞で、『スローな教育改革〜多様性が未来を開く』と題して、上述のPISAテストに代表されるようなテストスコアが高い国が、必ずしも生産性が高いとは限らないことを、テストの数学平均点と一人当たり名目GDPをマッピングすることで示している記事があった。
マッピングされた17カ国のうち、12カ国において、日本よりテストの点数は低いが一人当たり名目GDPが高い国という結果が出ている。記事内で引用されている「多様性のある教育がイノベーションを刺激している(日本総合研究所・山田久志主席研究員)」というコメントの裏付けとなる研究を存じ上げないので、断言はできないが、多様性に触れる教育、あるいは多様な個性に対応できる教育の選択肢の幅が、今の日本の教育の大きな課題であることは間違いないと感じている。
ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」
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