ビジネス

2018.05.15

なぜ若者は170万円払って海外医療ボランティアへ行くのか?

吉岡秀人(左)、大西洋(右)

EC(電子商取引)の拡大やAI(人工知能)の進出で、「消費のかたち」はこれまでにない変化を見せている。果たして「未来の買い物」とはどんなものになるのか。販売のプロである前三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋がその新しい可能性を探る連続対談、第3弾。

来たるべき新消費社会にどう対処すべきか、各界の専門家たちとの対話から、明るい未来を照射する。



吉岡秀人さんは、カンボジアやミャンマーを中心にした海外での医療活動や、国内各所でも地域医療支援などを行っている日本発祥のNGO「ジャパンハート」を創立した小児外科医だ。

吉岡さんたちの活動は、医療関係者やボランティアによって支えられてきたが、このところとみに若い人たちの志願者が増えているという。そこには、モノへの欲求よりも、心の豊かさに重きを置いた、新たな「消費のかたち」が見えてくる。

大西:吉岡さんがされている国際的な医療支援活動は、講演会で話をお聴きしたり、テレビなどで拝見したりして、つねづね素晴らしい活動だと思っていました。

吉岡:ありがとうございます。1995年から東南アジアで、貧困層の子どもたちに向けた医療活動を始めてから、20年以上になります。

大西:最近ではかなり吉岡さんのやられてきたことも広く知られるようになりましたね。

吉岡:そうですね。一時期、ビルマ(現ミャンマー)の遺族会が資金を出してくれていたこともありましたが、2004年に国際医療ボランティア団体の「ジャパンハート」を設立してからは、貯金を切り崩し、貧乏生活をしながら、海外へ医療活動に出かけていました。
 
大西:まさに身銭を切って活動していらっしゃったのですね。いまでも海外が多いのですか? 1年のうち、どれくらい海外へ出ていらっしゃいますか?

吉岡:1年のうち8カ月は海外にいます。ミャンマーでエイズになる可能性のある子どもたちを集めて、180人くらいを収容できる施設をつくったり、視覚障碍者に職業訓練をしたり、ミャンマー政府と協同しながら活動しています。

大西:そのなかでも東南アジアではミャンマーが活動の中心なのですね。

吉岡:海外は、他にはカンボジアとラオスになります。カンボジアでは小児医療センターをつくっていて、6月に完成する予定です。ガンになる子どもは日本では年間2500人ほどですが、人口が5290万人のミャンマーで同数、1580万人のカンボジアで1200人以上が罹患しています。しかも、満足な治療が受けられず、ガンになると、ほぼ全員が亡くなっているのです。

大西:東南アジアの貧困地域の現状は、お医者さんの診療や治療をほとんど受けられない状態なのでしょうか? われわれは、テレビや雑誌などからしかわかりませんが。

吉岡:日本の昭和20年〜30年代半ばぐらいの状況だと思ってもらえればよいかもしれません。東京や大阪のような大都市にしか病院がなく、金銭的な負担も大きいので、継続的に治療を受けるのが難しい状況ですね。

海外で医療支援するために医者に

大西:20年以上も前から海外の貧困地域で活動をされていますが、現在のように軌道に乗るまでには、並々ならぬご努力とご苦労があったのではないでしょうか?

吉岡:活動が軌道に乗ったのは、運とタイミングが大きかったですね。普通は個人が一所懸命やればやるほど、それに時間を取られてしまい、埋没してしまうものなのですが、ちょうどネット環境が整い始め、自分たちの活動を情報発信できるようになった。

大西:世の中の変化、とくにIT・デジタルの凄まじい進歩が、大きく流れを変えたわけですね。

吉岡:僕たちが活動していたのは電話もない場所でしたから、衛星回線を引いて、ネットにブログを開設して、自分たちの活動を発信していった。少しずつ人々の知るところとなり、話題にもなった。まさにインターネットさまさまです。

2005年には初めてテレビにも出ました。テレビ東京系で放送されたテレビ瀬戸内20周年記念ドキュメンタリーで、「ここにいのちある限り」という番組です。ミャンマーの難病の子どもを日本に招いて手術を受けさせました。
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文=松下久美 写真=小田駿一 編集=稲垣伸寿

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