大西:そんなことが起こっていたのですね……。「すまいるスマイルプロジェクト」はどのような活動なのでしょうか?
吉岡:日本で多くの子どもがガンを患っています。治癒する子もいますが、残念ながら亡くなってしまう子どもも少なくありません。「ジャパンハート」では、その子どもが生きた証として、また家族にとっての思い出づくりとして、医師や看護師が付き添って好きなときに好きなところに行けるサポートをしているのです。
大西:素晴らしいですね。そのような「ジャパンハート」の活動を継続的に発展させていくための課題は何でしょうか?
吉岡: NGOを「科学」し、「再現性」のある仕組みをつくることを命題としています。個人のスキルやノウハウではなく、誰がやっても同じことができるという「再現性」を持たせることで、ソーシャルメリットを最大化するということです、それが永続性にもつながります。
大西:それはシステムであったり、仕組みであったりということですね。
吉岡:ゴッドハンドを持つ医者は素晴らしいのですが、それは本人しかできないものですから再現性に乏しく、結果、持続性が低くなります。本来は、組織として科学的アプローチをし、マネージメント力を高めながら、上に立つものが卓越した技術を持ち、下のものがそれを再現できるのが理想です。海外の支援先だったら、僕だけではなく若い医師、さらには現地の人々が医療を施せるようになるのがいちばんいいのです。
大西:日本ではアートやカルチャーの世界でも他国に比べて若い人たちがすんなりと認められないような雰囲気があります。公的なイベントでも、同じようなプロデューサーやアーティストに集中していて、次世代が育っていかない。科学的アプローチの必要性や再現性のある仕組みづくりに重なるものがありますね。
吉岡:そうですね。仕組みとして若い人たちを育てたほうがいいのです。例えば海外に留学して最新の医療技術を学んできても、ずっとトップドクターでいることにこだわり、人に教えないし、若い人たちにチャンスを回さない。ゴッドハンドや名人芸にした途端に、ソーシャルメリットは低下してしまう。
大西:全体のレベルが上がりにくく、底辺も広がらない、ということですね。
吉岡:NGOとして最も効率的な仕組みは、現地の方々がわれわれの活動を代わってできるようになることです。サステイナブルにもなります。現地の人にお任せしたほうがコストパフォーマンスも良いですし、言葉や文化も通じるというメリットもあります。とにかく現地の医療者を増やし、レベルを上げるところまで見ていくべきだと思っています。
大西:すでに育ってきている人たちはいるのですか?
吉岡:はい。きちんとした教育の仕組みはなかったのですが、カンボジアでもミャンマーでも、一緒にわれわれと治療などに携わるようにすれば、皆、技術力を上げられます。カンボジアでは、プノンペンから1時間のところに小児医療センターをつくったので、次は大学を設立しようとしています。
アジアで統一の医師免許制度ができればさらに加速するようにもなるでしょう。20年後ぐらいの話になりますが、皆が学び、技術指導によって力量を上げていくようにすれば、患者の安全も担保されるようになります。
大西:それはまだまだ海外でもやることがたくさんありますね。これから先のご活躍と、吉岡さんの背中を見て活動される若い方たちにエールを送ります。
吉岡秀人◎1965年8月大阪府吹田市生まれ。大分大学医学部を卒業後、大阪や神奈川の救急病院で勤務。1995年~1997年にミャンマーで医療活動に従事。1997年~2001年国立岡山病院に小児外科医師として勤務。2001年~2003年3月川崎医科大学勤務小児外科講師。2003年4月から再びミャンマーで医療活動に従事。2004年4月に国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」設立。2017年6月、特定非営利活動法人「ジャパンハート」最高顧問就任。