実際、データ革命・情報革命による利便性の向上は、金融分野に限らず、生活のあらゆる分野に広くみられている。
例えば、日本を訪れる外国人観光客は大きく増えているのに、我々が日々の生活の中で道を尋ねられる頻度は、むしろ昔に比べて減っているように感じられる。これは明らかにスマホの地図アプリの影響であろう。また、これにより道に迷ったり遅刻する頻度が減ることは、経済厚生の向上にも大いにつながっているはずである。
前述のデータ・ジャイアント企業も、支払決済などのサービス提供を「金融」という限られた視点から見ているというよりは、これらを「データ入手」や「プラットフォーム構築」の手段として、幅広いビジネスの中で捉えている。
日本でフィンテックと言えば、とかく仮想通貨などに焦点が当たりがちだが、世界的に見れば、仮想通貨は決して広く使われているわけではない。世界の金融の構図を実際に大きく変えているのは、データ活用を通じて、金融と日常の幅広い経済活動とを結び付けるサービスであることが多い。
これらを踏まえると、将来の金融を展望していく上では、金融サービス提供主体の「問題解決のプロ」としての知見や役割が、ますます問われていくだろう。
歴史を振り返っても、多くの発明は、現実には「必要を母として」生まれたわけではなく、むしろ、本能と好奇心に突き動かされた人々が生み出してきた。そして、そうした発明が真に人々の利便性向上につながり、大きく育っていくかどうかは、これを現実の問題解決に役立てる技量と才覚を持った別の人々の存在に、強く依存してきている。
「フィンテック」は今や流行語となったが、これをGPSや地図アプリのような広範な利便性向上につなげていく取り組みは、多くが今後の課題と言える。また、金融への新技術応用が生むメリットに関する情報発信が「コスト削減」や「ダウンサイジング」ばかりに偏ってしまうと、フィンテックや、さらには金融自体への人々の期待を萎ませかねない。
おそらく、今後10年の世界の変化は、これまでの10年よりもさらに速いスピードで進んでいくだろう。そして2028年の金融の世界では、金融の枠を飛び越えた発想を持ち、新技術を現実の問題克服に役立てることに成功した主体が、主な役割を担っている可能性が高い。金融サービス提供者には、技術を利便性向上に結び付けていく「問題解決のプロ」としての技量や才覚の発揮を、大いに望みたい。
連載:金融から紐解く、世界の「今」
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