元々は即興劇のスキルとして生まれた「Yes And」
最終日にイノベーションブートキャンプののアンケートを取るのだが、いつもトップ3にランクインする不動の人気コンテンツがある。それは「Yes Andマインド」と呼ばれるもので、わたしはアイスブレイクとして必ず実施するようにしている。
わたしがYes Andを学んだのは、経済産業省主催のイノベーター育成プログラム「始動Next Innovator 2018」でシリコンバレープログラムのメンターを担当いただいている米国在住のハリウッド俳優・プロデューサーのマシオカ氏からである。
彼は演劇の即興劇で使うスキルとして、Yes Andを米国で学ばれ、現在はライフワークとしてYes Andの日本への普及活動に務められている。最近は、彼が日本に帰国する度にワークショップを開催されているそうだ。
私はマシオカ氏のYes Andワークショップのダイジェスト版として話すのだが、Yes Andの説明と簡単なワークショップにかける時間はわずか10分。それにも関わらず、毎回、トップ3にランクインされるのだ。Yes Andとは一体、何なのだろうか?
Yes Andとは?
Yes Andを説明する前に、その反対のYes Butについて考えると分かりやすい。Yes Butとは文字通り、肯定しているようで否定するやり方のことである。「日曜日、どこか行きませんか?」「いいですね。でも、給料日前だからちょっと」といった会話だ。日本企業のオフィスではほとんど、Yes Butで充満している。時には、「弊社はNo Because文化です」と言う人もいた。
Yes Butの功罪は、自由闊達なアイデア発想を遮断してしまい、複雑な前提条件を満たすミラクルなソリューションを思いつかないとバカに見える点である。こういう職場では、「うちではイノベーティブなアイデアが足らない」と言う人が多い。
一方、Yes Andはその逆である。「日曜日、どこか行きませんか?」「いいですね。では、給料日前なので、たった3000円でどれだけ充実の日曜日を過ごせるかに挑戦しませんか?」「いいですね。では、使うだけではなくて稼ぐことも挑戦しませんか?」「いいですね。では」と言った具合に、お互いのアイデアが被さなりあい、時に発展していくのだ。シリコンバレーにはこのYes Andが充満している。
Yes Andに最も重要な前提条件は、安全な空間
Yes Andを実施する上で最も重要な前提条件は、「絶対に否定されない安全な空間を作る」ことと「アイデアの取捨選択は一番最後にする」ことだ。
何を言っても肯定される場の安心感が、さらにアイデアを発展させ、突拍子もないアイデアに繋がるのである。ほとんどのアイデアはバカでくだらないアイデアかもしれない。でも、一見、ふざけたようなアイデアが呼び水となって素晴らしいアイデアに繋がることがあるのだ。
Yes Butで最初のアイデアを潰していたら、その可能性はゼロになってしまう。どんな優れたフレームワークやワークショップを取り入れても、オフィスにYes Butが充満していては機能しない。少なくとも、ブレインストーミングのアイデア発散の時間だけはYes Andを徹底し、バカでくだらないアイデアも許容し、リラックスした雰囲気で発散させることが重要だ。
こんな単純なことでも、全員に徹底することで、大きな効果を生む。そして、何よりもYes Andマインドを全員で持つと、全てが楽しいのだ。短時間にも関わらず効果絶大ということで、結果としてYes Andがいつもトップ3にランクインされている。
ぜひ幹部社員にこそ、Yes Andのマインドセットを取り入れてもらいたい。
連載:イノベーションに必要なトランスフォーメーション
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