現在、私が働いているベンチャーキャピタル(VC)のWiLではパートナーシップを結ぶ日本企業に対して、BIのマインドセットからAIのマインドセットへと切り替えるために、シリコンバレーの環境を活用したイノベーションブートキャンプを提供している。
複数の企業から同じようなポジションの担当者を混在させ、オープンな環境とすることで自社以外の視点を取り入れる工夫を行っている。参加者は、30代後半から50代、役職では課長から部長、つまり中高年が多い。なぜ若手ではないのか。
それは社内事情を熟知した中間管理職の層こそがイノベーションの中核を担うべき、との考えからだ。2015年にプログラムを開始して以来、今年で4年目を迎え、本プログラムを起点として各社でいくつものオープンイノベーションの取り組みにつながっている。
4日間にわたるコンテンツの中で、最も好評なのがデザイン思考ワークショップである。
シリコンバレーでのデザイン思考ワークショップ
WiL本社の向かいにあるパロアルト駅プラットフォームで、2人1組となった日本人が次の電車を待つ人に次々と声をかけ、彼らの交通手段への考え方について突撃インタビューを行う。これは、WiLのデザイン思考ワークショップの定番スタイルである。
ユーザーインタビューの光景
スタンフォード大学のお膝元であるパロアルト駅では、こういったインタビューは授業の一環でよく行われるので、相手も慣れたもの。幸いにも、パロアルトの日中の電車は1時間おきにしか来ないため、次の電車まで時間的に余裕があり、インタビューには最適なのだ。
デザイン思考のインタビューでは、五感の感度を研ぎ澄まして相手に共感し、傾聴することが求められる。常にソリューションを出すように訓練されてきた日本人にとっては、傾聴することさえ難しい。
さらに企業人として堅苦しいインタビューをしてしまうと、相手の本音を引き出せない。企業人ではなく、ひとりの友人のように接しなければ、そもそも相手は心を開いてくれないのだ。
このあと、インタビューでのヒアリング内容をもとに、交通機関による移動時の問題を解決する簡単な試作品の製作を行うのだが、インタビューでの共感こそが企業人にとっては最大の難関だ。