顧客と深いレベルで繋がることの重要性
BIの時代、世の中は比較的シンプルで、顧客が何を望んでいるかは市場調査によって簡単に把握できた。そこから仮説を導き、その仮説を検証するためにインタビューは用いられた。
AIの時代、世の中の価値観は多様化し、大量生産、大量消費の価値観は衰退している。こういう時代には、新しい価値観を持ったアーリーアダプターに共感し、深いレベルで繋がることが大切だ。デザイン思考では、既に作り上げた仮説を検証するためではなく、これから仮説を導き出すためにインタビューを行う。
製品開発経験の豊かな諸先輩ほど、デザイン思考のワークショップは懐かしい手法と感じるようだ。なぜなら、これは昔あらゆる会社、組織が行っていた「顧客第一主義」の原点だからだ。お客様の元に足を運び、困りごとに耳を傾け、共感し、一緒に解決策を見出す。組織が大きくなるにつれ、その文化は形骸化しやすいのだろう。
起業家ではなく、企業人にこそデザイン思考が重要
これまで多くの日系企業の方々と議論してきたが、「どうやってインタビューする人を見つければ良いですか?」という質問をよく受ける。この質問自体が企業において、いかに顧客との接点が失われているのかを物語っている。多くの企業人はそもそも本音レベルで顧客と話したことがないのかもしれない。
企業では、プロジェクトは経営層から降ってくることが多い。だからこそ、自分の問題ではなく、他人の問題を解く必要性に駆られるのだ。そこで、第三者に共感することで、問題の本質を見極める必要がある。そこに企業人におけるデザイン思考の重要性があるのではないか?
一方、起業家はデザイン思考の重要性は低いと考えている。なぜなら、起業家は自分の問題や身近な問題を解決するために起業するため、わざわざ第三者に共感して問題を理解し直す必要が少ないからだ。
見方を変えれば、どこにでもイノベーションのタネがある
「シリコンバレーでイノベーションブートキャンプを受けるまで、自社にはイノベーションのタネはないと考えていた。しかし、いまではどこにでもイノベーションのタネがあるように感じる。要は、見方を変えられるかどうかだ」これはブートキャンプに参加したある方の一言だ。
彼は研修で学んだマインドセットやスキルを早速、仕事で活かすことで著しい成果を上げ、飛び級昇進により一気に要職に大抜擢された。現在、自部署のプロジェクトでデザイン思考を活用するだけでなく、社内でワークショップを積極的に開催し、AI時代のマインドセットやアプローチを社内に伝播する活動を行なっている。デザイン思考は、ラボや新規事業部だけでなく、既存の事業部でも十分に有用であることを証明してくれた。
このように個人の変化が組織の変化に伝播するのを目の当たりにすると、このような変化が幅広く日本に広がって欲しい、と願うばかりである。