2017年10月14日、ソマリアの首都モガディシオで発生したテロでは500人以上が死亡し多数の負傷者を出した。
世界最悪のテロ組織は、同時に最も裕福な組織だ。そして、これは偶然ではない。
イスラエルのシンクタンク「政治戦略研究所」の会長でイスラエル国防省政治安全保障局の元局長だったアモス・ギラド少将(予備役)は、フォーブス イスラエルにこう語っている。
「テロ組織にとって財政部門は極めて重要で、車にとってのガソリン同様、欠かせないものなのです」
実際、テロ組織の運営には金がかかる。作戦の実行、工作員へのサラリー、トレーニングキャンプの維持、武器や爆発物、車両や装備などの買い入れと整備のための金だ。コストは巨大で、どれほどの資金が必要かは組織によって異なっている。
たとえばヒズボラやハマスなどは“普通の”テロ組織よりも多くの資金を必要とする。テロ組織自体が、社会的、宗教的、政治的、経済的なシステムを抱えており、権威を示し、影響下にある人々のニーズに応えなければならないためだ。
住宅や学校、病院、福祉施設の建設や維持に多額の資金を必要とし、中央銀行や司法機関、交通機関、警察といった機関の維持・管理にも資金がかかる。資金調達の手段(税収や天然資源を産する土地など)が多様化し、収入が増大する一方で、支出も平均的なテロ組織とはかけ離れたものとなる。
たとえ支出が多くとも、多くの収入源を手にした裕福なテロ組織は優位に立ち、影響力や勢力を伸ばしていく。17年初めに国連安全保障理事会が発表した報告書によれば、当時のISは戦闘員に潤沢に報酬を払い、戦闘員の募集にも巨額の資金を使っていた。とくに「実戦経験を有する」テロリストの勧誘に大金を注ぎ込んでいたのだ。
ISはつい最近まで世界で最も裕福なテロ組織だった。膨大な年間収入を背景に、他のテロ組織の倍のサラリーを支払っていた。アルシャバブの戦闘員の月給は平均30ドル(約3200円)ほどだが、ISではそれより33%高い40ドル前後で、家族持ちはその倍の80ドル前後を支給されていた。
もちろんそれはISが財政危機に見舞われる前の話だ。その後の資金難で戦闘員のサラリーの減額や遅配を余儀なくされ、生活のために副業を探す戦闘員も出ており、今後は多くのムスリム国家の支持を失うことになるかもしれない。ISに忠誠を誓った分派も、アルカイダのような「競合する組織に鞍替え」するだろうと見る向きもある。
影響力を増すイランからのマネー
データからは、テロ組織の資金力と活動能力との明確な関係も知ることができる。ナイジェリアを拠点とするイスラム系のテロ組織「ボコ・ハラム」は、ここ10年間で約2万人を殺害したが、その約3分の1にあたる7,000人以上は14年単年の犠牲者だ。その後の資金不足で彼らのテロ活動件数は激減し、犠牲者数も減ったのだ。GTDのデータよれば、16年にボコ・ハラムが実行できたテロは14年の約56%で、犠牲者数は約80%まで減少した。
それもそのはず。国連安保理に提出された報告書によれば、財政が逼迫したボコ・ハラムの戦闘員は餓死寸前まで追い込まれていた。部隊から離脱したり脱走したりした戦闘員さえいた。
テロ組織にとって資金は、それほど必要不可欠なもの。だが、資金調達手段は限られており、薬物や武器、たばこ、人身の売買、銀行強盗、“保護”に対する「みかじめ料」の徴収、身代金目的の誘拐などで、犯罪組織のそれとよく似ている。
ただし、それらとは別におおっぴらに大金が寄付される場合もある。資金提供者になるのは、慈善団体や企業、金融機関、裕福なビジネスマンで、近年は資金力のある政府や国家も含まれている。
「成功するテロ組織の背後には必ず財政システムがあり、多くの場合それは国家である」
イスラエル国防軍情報部のトップであるヘルツィ・ハレビ少将は、17年にある会議で語っている。「我々の地域では、イランがテロ組織への主要な資金提供者となっています」
実際、3年前に私たちが作成した裕福なテロ組織の推定収入との比較では、国家の支援を受けるテロ組織(ヒズボラやハマス、イスラム聖戦)の台頭と、独立した資金源に頼るテロ組織(ISやボコ・ハラム)が弱体化する傾向が顕著に見られた。