パリはパリ、本当のフランスの豊かさは地方にある

プロヴァンスの街、Gordes(shutterstock.com)




昔、僕が2か月ほどトゥールーズ郊外に身を寄せていた時、よくヒッチハイクをして街まで連れて行ってもらった。その時乗せてくれた人の半分ほどは、パリから引っ越してきた人たちだった。彼らに言わせると、「パリは忙しくて生きづらい」そうだ。「それに冬は天気も悪いしね。あんなところにいたら気が滅入っちゃう。その点、南フランスは気候もいいし、年中暖かいし、人もゆったりしていて実に暮らしやすい」という話を異口同音に聞かされた。

実際、このあたりはフランス屈指の美食の宝庫と言われているし、いかにもフランスの片田舎といった感じの、ひっそりと佇む小さな村々も点在している。フランス各地で150以上の村が認定されている「フランスの最も美しい村」の数も、このエリアが一番多い。僕がもし南フランスに住めと言われたら、喜んで引っ越すだろう。そのくらい、パリから遠く離れたこの南フランスには人々を惹きつける魅力が溢れているのだ。

東京オリンピックを控えた日本では、訪日外国人に地方の良さを知ってもらおうと多くの自治体が取り組みを行っている。そんな話を現地のフランス人にひと通りしたあと、2024年のパリオリンピックに向けてフランスも同じような流れがあるのか聞いたことがある。すると、「どうかな? フランスはもともと観光客が多いからね」なんて言われてしまった。

もちろん、まだまだフランスにも観光で伸びしろは大いにあるだろうが、この国の人々は自分たちの街の魅力をよく知っているんだな、と感じた瞬間でもあった。

ヨーロッパの地方はまだ遠い存在

とはいえ、日本ではパリ以外のフランスの街の情報はあまり知られていない。僕に渡仏の予定があることを日本の知人に言っても、「いいね、パリ」なんて言われてしまうが、パリに立ち寄らないことも多い。魅力的な地方都市を差し置いて、「フランス=パリ」という固定観念が多くの日本人にあるのはちょっと残念だ。

その原因は、もしかしたら僕らのように旅の情報を提供する人間にも一因があるのかもしれない。フランスの地方の魅力を知らない人が多いというのは、その良さを僕らが十分に伝えることができていないということなのだろう。

「パリはパリであって、フランスではない」と言う人もいるように、本当のフランスの豊かさは、それこそ地方にある。その地方の魅力を広く伝えていくのが、今後の僕の使命である。なんて勝手に思う今日この頃である。

旅行先の選択肢としてフランスの地方を紹介するだけでなく、そこに根付く文化や食、人々の生き方なども知ってもらうことが大事だと考えている。知らない文化に出会えば、毎日の暮らしや自分自身の物事の捉え方の中に、これまでとは違った選択肢を持つことができる。そのことが、異文化を知る最も大きなメリットであると僕は思う。

もちろん、自分の足で現地を訪ね、その街の空気を肌で感じるに越したことはないが、それはなかなか簡単なことではない。最近は海外も随分近くなったと言われるが、2週間のバカンスでも短いと文句を言うヨーロッパとは違い、日本では長期休暇も取りにくい。気軽にいけるアジア圏とは違い、ヨーロッパ、さらには地方都市ともなれば、まだまだ遠い存在なのも仕方がない。

現地に足を運べない人にも新たな選択肢を提案できるよう、今まで以上に僕もフットワーク軽く世界各地に乗り込んでいこうと思う。

世界漫遊の放送作家が教える「旅番組の舞台裏」
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文=鍵和田 昇

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