いま問題なのは、民間企業も現状はほとんどが公教育の方針に合わせてしまっているということです。「プログラミング的思考を育む」という名目で、脳トレやロジックパズルみたいな“お遊戯”のようなプログラミングをやらせる教室が目立ちます。これではプログラミング教育、ひいてはIT業界全体のレベルが下がってしまう。これは決して我々の独りよがりではなく、IT業界全体が感じていることだと思います。だからこそ、子供だましではない、プログラミングという技術が本来持つ可能性に光を当てた、IT企業の我々から見ても本格的だと言えるようなコンテストを開くことにしたのです。
小学生や中学生でも、大人がアッと驚くような作品を作っている子はいます。そういった子を発掘し、全力で支援したい。そして、そういう子たちが高校生ぐらいになったら、サイバーエージェントから就職の内定を出したい、というのが私の個人的な野望です。入社してくれなくても全然かまいません。「プログラミングがすごくできれば、高校生でもIT企業からジョブオファーが来る」ということ自体が、社会への強いメッセージになるでしょう。「とりあえず大学へ行っておくか」という今の進学や就職のあり方も変わるのではないでしょうか。
藤田: サイバーエージェントでも職種によっては、学生はインターンの段階からプログラミング経験が重視されます。「まったくやったことがない」という人は採っていません。エンジニアの初任給は新卒でも能力によって違いますし。これからは、どこもそうなっていくでしょうね。入社時期という現実的な問題はあるでしょうが、プログラミング能力そのものに年齢は関係ありませんから。
──これからは既存の仕事が人工知能(AI)に置き換えられていくので、AIには代替できない、クリエイティブな領域を理解する上でもプログラミングの素養があった方がいいという指摘もあります。
藤田: 今まではプログラミングを身に付けた人はだいたい理数系であったり、コンピュータへの関心が強い人だったりしましたよね。でもこれから求められるのは、「プログラミングを理解しながら、その上でクリエイティビティを出せるかどうか」という人材です。モノが作れるか、面白い発想ができるか──。だから、ふつうの人ほどプログラミングを勉強していないといけない、と思いますよ。
上野: 「必修」になったことで、プログラミングへの関心は高まったと思います。ただ、なぜプログラミングを学ぶのか、という点が忘れられがちです。例えば、「〇〇力を身に付けるためのプログラミング。〇〇力を高める手段としてのプログラミング」といった話が出てきます。でも、その議論は我々からすれば違和感があるんですね。プログラミングはサービスやプロダクトを作るための手段であって、プログラミングを学ぶことによって何らかの別の能力を向上させるという話ではないのです。このままでは、プログラミング教育が実学ではなく、ただの“お勉強”に成り下がってしまいかねない、という懸念はあります。