世界と比較して低い日本のITエンジニアの立場
──需要があり、将来的にも生き残る職業。それでも、圧倒的に足りていないのだとすれば、何がエンジニア数の増加を阻害しているのでしょうか。
藤田: 「IT土方」とか「デスマーチ」という言葉に象徴されるように、プログラマーやエンジニアはキツい仕事だという認識が世間に根強いということも一因としてあるでしょう。だからこそ逆に、シリコンバレーのエンジニアたちのように、世界を大きく変えるサービスを生み出すのは優れたエンジニアなんだという面を、もっと知らせていく必要があると思います。
──アメリカに限らず、インドや中国でもエンジニアがかなりの好待遇を受けています。
藤田: 日本でもすでに優秀なエンジニアの引き抜きが起きていますよ。花形じゃないですか。「IT技術者は下請け仕事ばかり」という印象を払拭し、業界全体の労働環境を改善していくのも大事なのでは。
上野: IT業界の立場からすると、エンジニアが“スター”のように華やかな職業としてもっと注目されてもいいと思うのですが、一般のご家庭ではそうした側面が見えにくい現状もあります。だからこそ、そうした利点を伝えるマーケティングも必要です。多少即物的かもしれませんが、優れたプログラミング能力があれば、進学や就職に有利という実利的な面も、伝えていく必要があるかもしれません。進学がどうだ、就職がどうだというのは大人の打算でしかないのですが(笑)。
子供たちはもっと純粋に、コンピュータを駆使してモノを創る仕事に憧れをもってくれています。「子供たちがなりたい職業ランキング」でもゲームクリエイターやプログラマーは割と上位に入っていますからね。それに加えて、最近は親の認識も変わりつつあるので、よい流れなのではないでしょうか。
──プログラミング教育については、教える先生が足りないという問題も指摘されていますね。
藤田: 公教育の場にプログラミングできる先生がそんなに数いるわけがないですよ。それに、先生が子供に抜かれそうですよね。子供は覚えが早いですから(笑)。
上野: 実際、教員研修に行くと、「子供の方が詳しくなってサポートできなくなった場合はどうすればいいか」という心配する先生もいらっしゃいます。それぐらい生徒が成長しているわけですから、本来は喜ばしいことのはずなのですが……。
CA Tech Kidsでもこの5年間、小学校での出張授業や教職員研修、文科省や官庁への政策提言等を行ってきましたが、最近は公教育と民間がやるべきことをもっと分けて捉えるようになりました。やはり、小学校でのプログラミング教育が「プログラミング的思考」を養うための導入的・初歩的なものであるならば、民間教育事業者である我々は、自分たちの存在意義としてもっと突出したことをやっていこうと。
──政府が掲げた当初のプログラミング教育構想の志は高かったように思えますが、徐々に形骸化しているようにも見えます。その点について不安はありませんか?
上野: 言葉を選ばずに言えば、当初は不安というよりも憤りを覚えましたね。必修化とは名ばかりで、新しい教科も設けない。具体的な内容は現場の先生に「自由にやってください」と丸投げ。本当にやる気があるのか、と。ただ、英語や道徳の教科化や先生への負担など、理想を実現するにはハードルが多いという現実も確かにあります。
ですから、公教育に過度に期待をするのではなく、公教育と民間がしっかり役割分担をして、公教育がボトムアップしつつ、民間企業は公教育にはできないような、ハイレベルな取り組みを行ってトップラインを引っ張っていくという形が現実的だと考えています。