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2018.04.04 19:00

歴史に「もし」を考えてしまうチャーチル「伝記」映画の迫力


議会内での和平派とのせめぎ合い、作戦によって犠牲になる部隊の存在、そして徹底抗戦を決断するまでの自身の葛藤、これらをチャーチル本人は「Darkest Hour」という言葉で表現したのかもしれない。その原題のままに、本編の大部分を占める議会内の場面は暗い色調で統一されていて、時折挟み込まれるチャーチルの私生活の部分では、一転、画面は明るくなり、彼の人間像が映し出される。

偏屈で独断専行の人間として通っていたチャーチルの内面まで、特殊メイクを施したオールドマンは見事に演じている。その迫力には感嘆するばかりだが、とくに何回か登場する議会での演説場面、ひとりで地下鉄に乗り、乗客にナチス・ドイツに関して尋ねる場面(残念ながらこれは映画だけのフィクションらしいが)など、まさにアカデミー賞主演男優賞にふさわしい演技を展開している。

作品のなかでは、チャーチルは迫り来るナチス・ドイツに徹底抗戦を宣言する首相として描かれているが、彼の意見に組みしない「和平派」の政治家たちもいた。実際、隣のフランスでは、ナチス・ドイツとの宥和を考える勢力が実権を握り、連合国側からは「傀儡」と言われたヴィシー政府が誕生していた。

議会のなかでは異端とも見られていたチャーチルだが、まさに徹底抗戦派としての彼の頑固さがなければ、その後のヨーロツパの地図はどうなっていたか……と考えると、邦題の「ヒトラーから世界を救った男」というサブタイトルもけっして大袈裟ではないと思う。

朝からアルコールを飲んでいたり、いつも葉巻を口にしていたり、政治家としてはかなり型破りであったチャーチル。その傲岸不遜な態度は、ある国の大統領に似てなくもないが、チャーチルはノーベル文学賞をも受賞するほどの文筆家でもあり、なかなか定型に収まらないところもある。この作品では、そういった彼の知られざる素顔にも触れ、一筋縄ではいかない政治家像を描いている。

もしナチス・ドイツへの徹底抗戦を主張するチャーチルがいなかったら、その後の世界はどうなっていたか? 歴史に「もし」は禁物だが、そんなことも思わず考えてしまう作品でもある。

映画と小説の間を往還する編集者による「シネマ未来鏡」
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文=稲垣伸寿

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