企業の利益率は賃上げに影響するだろうか。
企業売上高経常利益率(緑色破線)は、バブルの頃(80年代後半)も4%台にのせることはなかった。長期低迷の時期には、2%を切っていたが、02年頃から、上昇を始め、09年度・10年度には、一時低迷するものの、アベノミクスのもとで、上昇トレンドに乗り、16年度には5%を上回っている。企業の利益率はバブル時代をはるかに上回る。ところが、企業の利益率の変動と賃金引上げ率にはほとんど相関はない。
しかし、ここまで企業の利益率が上がってきたのだから、3%の賃上げをして労働者に一部還元するのは当然だ、という立場もある。一方、企業の利益が上がってきても、それが労働者の生産性の向上によるものでなければ、労働者に還元する必要はない、という冷静な判断もあるだろう。労働者の賃上げはあくまでも生産性向上に連動すべきだ、という立場で、これは経済合理性にもかなっている。
では、労働者の生産性は上がっていないのか。労働者の生産性をみるのには、いろいろな指標が考えられるが、ここでは労働者一人当たりのGDP成長率を労働生産性の代理変数として使ってみよう。
図2は、(実質)GDPを労働力人口で割った、労働者一人当たりGDP増加率(黒色実線)と、これと相関をもつと予想される変数として、所定内給与額変化率(緑色破線)と、現金給与総額変化率(赤色丸マーカー付き)を描いている。
たしかに生産性と給与とのあいだには相関関係が見られる。もちろん図1でみた賃上げ率と、給与総額(特に、所定外・ボーナスを含む現金給与総額)とは同一に論じることはできないものの、重要なのは生産性の向上だ、ということはわかる。ところが肝心の労働者一人当たりGDP増加率はこのところ低迷している。
安倍政権は、今年は、「働き方改革」「生産性改革」を重要政策として掲げているが、これは実質賃金、実質給与を改善するためには、必須の改革である。生産性の向上が労働への利益の分配を高めるからだ。一方、日本では、不況でも「雇用は守る」、好況でも引き抜き合戦はおこらないことから生産性と賃金がなかなか高められない、という問題もある。
企業業績がよいのであれば、「最低賃金」をどんどん上げて、生産性が低い企業には退出を願い、労働者をより生産性の高い職種に移動させるということが有効かもしれない。たしかに、東京都の最低賃金はここ5年間で、850円から958円へと上昇している。この動きをさらに加速させることが重要だ。
もう一つ生産性を向上させるために重要なのが、残業をなるべく減らして労働時間を減らす一方で、成果(生産物)を変えないように効率的に働いてもらうことである。
残業時間数を減らすためには、超過勤務手当てを2割5分増し(ただし60時間を越えると5割増)から、欧米なみの5割増しにすべきだろう。そうすれば、超過勤務半減でも労働者の手取りは変わらない。もちろん労働者が短い時間でも成果は同じになるような労使双方の努力やAI活用などの工夫が必要だ。