ウォルマートは傘下の会員制スーパーマーケット、サムズ・クラブの一部店舗の閉鎖を決定した。これにより、何千人もの従業員たちが再び、求職活動を開始せざるを得なくなる。さらに、すでに伝えられているとおり、同社は数千台のセルフサービス方式のレジを導入し、レジ係の数を大幅に削減する計画だ。
「全労働者の利益」はあり得ない
最低賃金の引き上げは、理論的には良いことだ。より多くの収入を最も必要とする低所得の人たちに、企業がより多くの賃金を支払うのだ。だが、実際には最低賃金の引き上げの恩恵を受けるのは、必ずしもそうした低所得の人たちではない。人件費の増加は、企業が労働者にとって不利な経営方針の変更を行うきっかけになる場合もある。
つまり、労働者の利益となる賃上げの裏側には、いくつかの“醜い真実”があるということだ。その一つが、前出の「セルフ清算レジ」の採用に見られるような、労働者に代わる機械の導入だ。企業は増大した労働費用を、高度な作業をより安価に行うことができる機械によって相殺しようとする。
もう一つは、企業が新たな給与体系の下では利益を上げられないと判断した事業について、縮小に乗り出すことだ。サムズ・クラブの店舗閉鎖がその明らかな例だ。
ウォルマートは、サムズ・クラブの1割ほどに当たる63店舗を閉鎖する。同チェーンが米国内に擁する従業員は、約10万人。1店舗当たりの従業員は150~160人と見られることから、合計およそ9700人が職を失う可能性があるということになる。
セルフレジは、最低賃金の引き上げがなくても技術の進歩に伴い、結局は店舗に導入されることになっていただろう。そして、オンライン販売が従来の販売形態から利益を奪い取っていく中で、一部の小売店はいずれにしても閉鎖されることになっていただろう。
だが、たとえそうだとしても、最低賃金の引き上げはこうしたプロセスを加速させるものになり得る。ウォルマートはダイナミックな自由企業体制の下で活動する営利企業であり、福祉機関ではない。最低賃金の引き上げを発表した直後に店舗閉鎖の計画を明らかにしたことは、単なる偶然とは考えられない。