ビジネス

2018.04.02

4次元で考える、オープンイノベーションの鍵は「過去」にあり

イラストレーション=尾黒ケンジ

新しいチャレンジを仕掛ける「いい組み手」はいないものか。今回のコンセプトはそんな悩みに対する秘策。コラボ相手を探すために「時空を超えてみよう」という大胆な提案だ。まだ誰も気づいていない(?)新アプローチを公開する。


オープンイノベーション。言われて久しいこの言葉、原稿を書くにあたり、改めて辞書とネットで引いてみました。「組織内部のイノベーションを促進するために、内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用すること」。そして、その外部とは「他社、大学、地方自治体、社会起業家、消費者」などを指す。

ふむふむ、よかった。一般的なオープンイノベーションには、僕らがいろんな方にお勧めして、組むといいですよと言っている「外部」が入っていない。こっそりお教えしましょう。その組み先の「外部」とは、「過去」です。

2014年10月27日、JR東京駅構内に、森永製菓による期間限定ショップがオープンしました。森永のハイクラウンという往年のチョコレートの発売50周年記念ショップ。暖簾がかかる和風のたった2坪の店舗には、現代にリデザインされたハイクラウンや、有田・伊万里焼とのさまざまなコラボ商品が並び、JR東京駅駅舎のドームのデザインの磁器にチョコを詰め合わせたものは35万円と、何かと話題を呼びました。

我々も関わったこのショップ。誕生の背景には、森永製菓の社史があります。創業者の森永太一郎さんは、佐賀県伊万里市の出身で、若かりしころ、伊万里焼を売りにアメリカへ出ます。しかし、これがまったく売れず、公園のベンチで途方にくれているとき、おばあさんが見たことのないお菓子をくれます。それはキャラメル。これが美味、かつ栄養にもなる。製法を学んだ彼は日本へ帰り、東京赤坂に2坪の製菓工場を立ち上げます。これが森永製菓の始まりです。

2坪のお店。伊万里焼。おわかりですね。僕らが組んだ相手は、社史、そして森永太一郎さん、つまり「歴史」とのオープンイノベーションだったのです。創業115年の森永製菓が、原点に帰りつつ新しいことをやる。そのためのショップデザインです。
 
次は、現在進行中のものをご紹介。教育界では「主体的、対話的、深い学び」、通称アクティブラーニングが声高に叫ばれていますが、これまた輸入ものの概念。歴史を紐解けば、地域ごとにアクティブな教育が、日本中で行われていたんです。例えば、わが故郷佐賀県には大隈重信ほか佐賀の7賢人を輩出した伝説の名門藩校「弘道館」がありました。

その教育方針を調べると、これが面白い。「改革は教育に始まる」という目的で設立。モットーは「自学自習」。1000人の生徒が学んでいましたが、先生はたった10人。それは、学んだ先輩がすぐに後輩に教えていたからです。

特筆すべきは「会読」。四書五経を読んで議論をするディベート付き読書会ですが、ここには鍋島直正公自身も月に1回参加し、無礼講でディスカッションしていました。当時は「議論は会津か肥前」と言われ、評判を聞きつけた岩倉具視は息子を佐賀に留学させたそうです。その後、大隈重信や副島種臣といった議論に秀でた人材が中央で大活躍することにつながりました。
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文=倉成英俊

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