現代の人間も経験則という過去の事績に照らして未来を予想する。株式相場予測の多くも過去を振り返りながら足元の状況を判断している。過去といってもせいぜい100年だ。マーリンと異なり、1000年に一度、といった予想変数は入れにくい。予想というより当てっこゲームとされてしまうからだ。
今年の年頭も、経済界要人による株式相場予測が報じられた。最も強気の予想でも日経平均株価の高値は28000円、最弱気の安値予想は19500円だ。ちなみに昨年は18200円から23400円のレンジで推移したから、多くの人々が昨年比「小じっかり」程度で見ていることになる。過去の経験に徴するとはいっても、やはり直前の残像効果が大きい。
株式ストラテジストのような相場専門家になるともっと古い時代を引き合いに出す。1940年代の金利釘付け政策に昨今の「高圧経済政策」との類似性を見出してみたり、60年周期といわれる技術革新のコンドラチェフ周期から分析予測を試みたりしている。
年末の盛り場の賑わいや正月休みの海外旅行者の人だかりを見て、30年前のバブル経済を追体験する人々も少なくない。申酉騒ぐ年々から「戌笑い」の年になる、との相場格言を持ち出す者もいる。これら現代のマーリンたちは、日経平均30000円超えを唱える。
マーリンの真骨頂は、しかし、神の啓示を受け継いでいる点にあった。母親は神の加護を得た類稀な清らかな人物だったからである。したがって、彼は過去を知悉する悪魔の能力だけではなく、神のみがもつ未来の予知能力を備えていた。
投資の世界でいうspeculationには「将来を見通す」という含意がある。マーリンの神から託された予知能力にこそ株式相場予測の本質がある。