闘いながら少女を先頭へと押し上げる、タフな女たちの気概

映画『ローラーガールズ・ダイアリー』の監督、ドリュー・バリモア(左)とヒロインを務めたエレン・ペイジ(右、Photo by Jeff Vespa/WireImage)

平昌オリンピックが閉会して2週間、現在はパラリンピックで競技者たちがメダルを競っている。

五輪に女性が参加できるようになったのは、1900年の近代オリンピック第2回から。19カ国1066人の選手のうち、女性は12人だけだったという。さらに当初はテニスやゴルフのみで、大会側が「女性らしい」と見なした競技に限られていた。

夏期も冬期もすべての競技に女性が参加できるようになって40年余り。今年も女性アスリートの素晴らしい闘いを見ることができたのを、素直に喜びたい。

フィギュアの「異次元の闘い」や、カーリング女子の健闘もさることながら、スピードスケートでの熱戦が印象に残る。「闘う女の美しさ」は、「女性美」と言われるものの中でも、比較的新しい種類の美だ。それはプロのアスリートからアマチュアまで、ゲームで全力を尽くすすべての女性に宿っているものだろう。

今回からの新種目、女子マススタートを見ていて思い出したのは、2009年のアメリカ映画『ローラーガールズ・ダイアリー』である。ドリュー・バリモアの長編映画監督デビュー作。モチーフになっているローラーゲームは、チームを組んで闘うイベント色の濃いスポーツだが、複数人がトラックを何周も滑走するという形式と、駆け引きが重要という点で、マススタートと似ている。

ドラマの主人公はテキサス州のボーディーンという田舎町の高校生、ブリス(エレン・ペイジ)。この連載で扱った映画のヒロインの中では最年少だ。

鬱屈していた少女が心から好きになれるものに出会い、恋も経験して成長していく青春ドラマを、なぜここで取り上げるのか? それは、青春をとうに過ぎた私たちにとって「過去の私」であるブリスに、さまざまなかたちで関わる大人の女たちが描かれているからだ。あらすじを紹介しながら、その関係を見ていこう。

ブリスの母は「少女を支配する女」である。自分がかつて出場していた美人コンテストでブリスを優勝させるのに全エネルギーを注入、若い頃の夢を娘によって実現させようとする、いわゆる毒母だ。自分では理想の母として振る舞っているつもりだが、娘に隠れて喫煙していたりする点に内面の弱さがほの見える。

母の過剰な期待に応えられず内心腐っていたブリスは、ある日、買い物に出たオースティンの店で、心ときめくものに出会う。ローラースケートを履いて店に滑り込んでくる、ちょっと不良っぽくカッコいい女たち。ブリスが見とれている前で、彼女らは試合のチラシをカウンターに置き、また颯爽と去っていく。

ブリスの心臓が鷲掴みにされるこのシーンで、少女時代に今まで見たことのない、ドキドキするものに出会った運命的な瞬間を、鮮やかに思い出す人は多いのではないだろうか。

親友のパシュの車で、大きな倉庫で行われるローラーゲームの観戦に来てみると、大勢の観客が詰めかけ会場は異様な熱気に満ちている。ちょっと気になる男子を見つけたりする。このシーンも、初めてコンサートなどに行った時のワクワク感を思い出させる。

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映画のプレミア上映会で披露されたローラーゲームの様子 (Photo by Jeff Vespa/WireImage)

試合は強豪のホーリー・ローラーズと最下位のハール・スカウツ。選手たちは露出度の高いユニフォームに防具を装着し、黒々としたゴスっぽいメイクを決め、女子プロレスラーさながらだ。リンク名は「ブラディ(血塗れ)・ホリー」だの「アイアン(鉄の)・メイビン」だの、どこかで聞いた名をもじっているところが面白い。

女子のみで行われているローラーゲームは、滑走しながら体ごと相手をどついて転倒させるのもありの、かなりタフな競技。際どいジョークで会場を盛り上げる司会者のトークも女子プロとそっくりで、若い女たちの肉弾戦を観客はやんやと囃し立て、熱狂的に応援する。
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文=大野左紀子

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