──これからのグローバル企業に求められることは何でしょうか。
私は、グローバル企業に勤めるすべての人がマルチリンガルになる必要はないと思っています。実のところ、「インターナショナル化」のコストは高いのです。もし日本人だけで働いていれば、コミュニケーションはシンプルですよね。それに比べて異なる国々の人からなるチームでは、互いを理解するためにより多くの時間がかかります。
私がグローバル企業に提唱しているモデルがあります。それは、海外に拠点をもつときにはスタッフの80%を現地の人々にし、残りの20%がその国と他国の文化をつなげる「橋」の役割を務めることです。例えば日本企業がドイツに拠点をもつとなった場合、現地人以外の20%の人が、日本のやり方をドイツ人に、ドイツのやり方を日本人に伝える「コネクター」になる。それが能率的なグローバル組織のあり方だと思います。
日本のマネージャーには、世界のどんな国の人々よりも異文化理解力を身につけることが求められています。というのも、ここまで独自の文化をもちながら、企業は世界レベルで活躍している国はほかにないからです。いち早く自分たちの文化をマッピングし、シンガポールや中国といった他国との文化の違いを理解することができれば、日本はグローバル社会でよりよく働くことができるでしょう。
──最後に、異文化理解力が日本のビジネスにもたらすことを教えてください。
本のなかで、人物の写真を撮るときにアメリカ人が顔のアップを撮ったのに対し、日本人が部屋全体が映るように撮ったという話は覚えていますか?(第3章「なぜ」VS「どうやって」部分)
私たちが何かを見るとき、私たちはそれぞれ異なる視点で物事を理解します。そしてそれは、異なるアイデアを生み出すことにつながります。これまでの研究からも、もしチームがよくマネージされていれば、もしリーダーが全員の声を注意深く訊くことができれば、異なる文化をもつチームはよりイノベーティブになれるということがわかっているのです。
エリン・メイヤー◎フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクール「INSEAD」教授。異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とする。2017年、世界で最も影響力のある経営思想家ランキング「Thinkers 50」にて39位に選出されている。著書に『異文化理解力』(英治出版)がある。