勝者が利益を総取りする「プラットフォームの経営学」とは? なぜ成功している大企業がデジタル化する必要があるのか、そして、そのための具体的な方法について検証する。
現代のビジネスは“自動車王”ことヘンリー・フォードが定義してきた。それは、組み立てラインを使って労働者が分業して製品を大量生産する、というものだ。フレデリック・テイラーが考案した「科学的管理法」は作業の標準化・効率化を実現した。それにより、私たちは自動車や洗濯機、旅行するための余暇などを手に入れることができた。
ところが、この“20世紀型成功モデル”が今まさに企業のデジタル化を阻害している。事実、効率化を目的に作られた組織は、変化によって社内の秩序が崩壊するのが怖い。そこで、多くの会社は組織運営の邪魔にならない程度に、ニッチな事業でささやかにイノベーションを目指す傾向にある。
アプリを作るのは簡単だが、デジタル化ははるかに難しい─。変革を中途半端なものにしないためにも、明確なコンセプトに基づいて進めるのが大事だ。ひとまず、「インダストリー4.0」などの標語を脇に置いておこう。
デジタル化を進めるに当たって必要なのは、次の3つの問いだけである。「なぜ?」「何を?」「どのように?」
1.「なぜ?」─勝っていても変わるべき理由
たとえ未来の売り上げや利益のためであっても、事業がうまくいっている会社ほど、生まれ変わるのが難しい。米レンタルビデオチェーン最大手「ブロックバスター」がよい例だ。
2004年、ブロックバスターは米国内に8000店をもつレンタルビデオ業界最大手として君臨していた。だから、その数年前に創業したばかりの新興企業「ネットフリックス」がインターネット上でDVDを借り、郵便で返却できる定額サブスクリプションモデルを導入したとき、ブロックバスターの経営陣は誰一人として見向きもしなかった。
すると07年、ネットフリックスはインターネット上で「動画配信サービス」を開始。DVDはたちどころに時代遅れのものとなった。郵送配達を待つ必要もなければ、郵送返却も不要、短い待ち時間で新作が楽しめる─。魅力的なサービスを前に、消費者はネットフリックスに殺到した。
慌てたブロックバスターも本腰を入れて動画配信サービスを開発したものの、その質は低かった。ネットフリックスはすでに市場で圧倒的なシェアを獲得しており、後発のブロックバスターは彼らを上回るサービスを提供できなかった。今日、ネットフリックスは動画配信業界最大手になり、ブロックバスターは10年に破綻している。
教訓は明確である。あなたの会社がどれだけ業界内でよい位置につけていようとも、経営陣がデジタル化のもたらす変化を過小評価しているようなら、極めて大きなリスクを抱えるということだ。変化を感じながらも、現在の売り上げを損ねたくないという理由でデジタル化を躊躇している会社にも、同じような運命が待ち受けている。