ビジネス

2018.02.15 08:00

デジタル化できない企業を待ち受ける「運命」とは


「危機感の醸成」が最大のカギ

根本からの変革には、力と信念、そして多くの場合、きっかけが必要となる。たとえそれが廃業することへの恐れであってもいい。不安は人を駆り立てるからだ。実績のある企業の場合、それが社員にイノベーションを受け入れさせる理由になる。イノベーションは、デジタル化に当たって不可欠である。なぜなら、すべては新しい製品やサービスを低価格で提供できるよう開発するのが目的だからだ。要は、新しい価値提案が求められているのである。

ドイツの自動車部品製造大手「ボッシュ」のフォルクマール・デナーCEOは次のように述べている。

「ピザの注文やタクシーを簡単に手配する方法がいくらでもあるからといって、それが社会全体に与える影響を過小評価してはいけない。消費行動が変わり、彼らのお金は別の会社に流れ込んでいる」

障害と強みを見極め、目標を設定する

個人差こそあれ、デジタル化がすべての人に影響を与えることを私たちは知っている。CEOをはじめとした経営者たちが自問すべきなのは「我が社のビジネスモデルは時代遅れだろうか」「予定している変革だけでこと足りるだろうか」である。

求めているレベルが高い場合、変革後のビジネスモデルはまったく異なるものになるはずだ。世界的複合企業「GE」のジェフリー・イメルト前CEOは16年夏、「GEの全部門がソフトウェア開発企業にならなくてはならない」と語っている。重機や部品を販売・保守管理するのに加え、来たるIoTの世界に備えてソフトを開発するのが同社にとっての新しいビジネス領域なのだ。

なかでも、伝統的な企業は業務の多くが硬直化しがちだ。業績がよいときに変化の必要性を訴えたところで、従業員も適当に調子を合わせるだけだろう。本当に会社を変えたいならば、存在する障壁を見極め、取り除いていく必要がある。

明確な目的がないままでは、デジタル世界への旅はあてのないものになりかねない。だからこそ、経営陣は量的・質的な目標を立て、それをきちんと従業員に伝える必要がある。現在地と目標達成までの道のりを示す中間目標を設けるのもよいだろう。

2.「何を?」─デジタル化する意味とは

人によって「デジタル化」の中身は異なる。そこで、枠組みと計画が必要だ。「何を?」という問いに答えるには、次の3段階の枠組みを作るといい。

(1)新しいエコシステムを作る

第1段階の「エコシステム作り」では、戦略的に考えることが大事だ。イノベーションは、業界間の領域で生まれる。技術の進化に伴って生まれる可能性がある市場について考えなくてはいけない。

そして管理職は、「競合は新しい技術を使って我が社のビジネスを奪おうとしているか」「デジタル化で生まれるビジネス機会を理解し、新しい価値を顧客に提案できているだろうか」「伝統的な産業間に新たに利益が出る場所が生じているだろうか」といった戦略的な問いに向き合うことが求められる。

もし答えに不安を覚えるようなら、将来的に売り上げを他社に奪われる可能性が高く、現在のビジネスモデルを見直す必要性がある。破壊的な変化を想定して、新たなビジネス価値を提案できるビジョンを考えるべきだ。

(2)ビジネスの枠組みを作る

第2段階の「ビジネスの枠組み作り」では、実務的な課題に取り組むことになる。例えば、「デジタル化を利用して新旧さまざまな顧客にアプローチできているか」「デジタル化の恩恵を最大限に生かしているか」「デジタル化で経営や総務の仕事は効率化されているか」といった課題である。

デジタル化が影響を与えるのは主に顧客体験、製品イノベーション、付加価値という3つの領域である。なかでも強みを活かせるのが「顧客体験」だ。シンプルかつ安心できる手順で、アクセスから注文までユーザーに円滑な顧客体験を提供できる。外部の開発者向けにオープン・プラットフォームを開放している会社もある。それにより、イノベーションを起こすスピードを上げているのだ。また、受発注や顧客サポート、データ分析なども含めてバリューチェーン全体を上手にデジタル化した会社もある。

(3)基盤を強化する

第3段階の「基盤を強化する」とは、技術的、組織的な枠組みを整備することである。ここで考えるべきは、「我が社は最先端のテクノロジーを取り入れているか」「デジタルに精通した人材を引きつけ、他社とパートナーシップを築けているか」といった点だ。

ここでは、テクノロジーや企業文化が課題になる。現実的なことをいえば、既存のITシステムを短期間で入れ替えるのは不可能だ。もし新しいスキルが必要とあれば、それを習得する時間も考慮しなくてはならない。当然、会社は使い勝手がよく、処理速度も速い別のITシステムを並行して使う必要がある。それを活用できる優秀な人材も不可欠だ。そうした人材は社内に上下関係がなく、部署横断的に働けることを望む。つまり、企業文化も組織も根底から変わることが求められる。
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文 = アナンド・スワミナサン & ユルゲン・メッファール / デジタル・マッキンゼー 翻訳= フォーブス ジャパン編集部

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