漆さんは2017年末に『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版刊)を上梓した。「10代のときには知らない20代があったように、20代のとき知らない未来もある。あのとき知っていれば……」という女性の後悔を減らせるよう思いを綴り、女性だけではなく、マネジメント層の男性にも広く読まれている。
28歳──それは、人生を3等分すると、第一ステージを終え、第二ステージが幕を開けようとする時期。漆さんは28歳を人生のターニングポイントととらえ、そこから逆算するライフデザイン教育の場を設けてきた。
時代の変化の真っ只中にいる今。働き始めた20代の女性、中高生の子を持つ親、次世代を育てる教員、皆それぞれ目指すべき女性像がわからないでいる。女性が自分らしいキャリアを描くためには何が必要なのか、本誌副編集長の谷本有香がインタビューした。
これから必要な3つの「非認知能力」
谷本有香(以下、谷本):漆理事長が女子の中高生徒たちと日々触れ合う中で、時代の変化とともに生徒のキャリアの捉え方にも変化は見られますか?
漆紫穂子(以下、漆):はい、いまは、結婚や出産を考えるにしても、仕事は大前提として考えている生徒が多いです。最近の傾向として面白いのは、以前までは一部上場企業の総合職を選ぶ卒業生が多かったのですが、大企業に受かりながらもあえてベンチャーや外資を選ぶ卒業生が増えてきたのです。
谷本:安定志向の世の中の流れとは逆ですね。なぜベンチャーや外資を?
漆:「鍛えられたい」という気持ちでしょうか。入社後は大変かもしれないけれど、自分が成長する会社を選びたい。なぜかと聞くと、子育てでキャリアが停滞する時期があってもいいように、早めにスキルをつけたいと言うのです。
谷本:素晴らしいですね。AIで産業構造が変わっていく中で、既存の仕事の何割かはなくなってしまうとも言われています。学長が考える、これからの時代に必要なスキルとは何でしょうか?
漆:「非認知能力」には注目しています。非認知能力とは、IQなどでは測れない人間力のこと。欧米の大学入試では1点刻みのテストは廃止されていますが、日本でも従来のままではいけないと教育改革を進めている最中ですよね。非認知能力のなかでも、3つの力が大切だと思っていて。
まずは、「問題発見能力」と「行動力」。これまでは、与えられた問題を速く正確に解く力が求められてきましたが、もうそれはAIでできてしまいます。今後は、顕在化していない問題を発見し、人を巻き込みながらアイデアを形にしていく力が必要になっていく。それを磨くための「デザイン思考」を導入しています。
谷本:企業にもキャリアにも顕在化した課題や、勝ちパターンが少なくなってきているので、インサイトを見つけるための訓練が必要になりますね。
漆:そして「共感力」も、グローバル化が進む中で、特に身に着けてほしい非認知能力です。他者に対する共感力の前提には、自分に対する共感があります。日本人はそれが苦手と言われます。
日本女性にはこれまで、手を挙げて目立つことを恥ずかしがる傾向がありました。「120%できないと逆に迷惑なのでは」と身を縮めてしまうのでしょう。
自分ができないところは周りに助けてもらおう。このスタンスでいいのではないでしょうか。ここに女性特有の「頼む力」が発揮されて、きっと周囲も気持ちよく手伝ってくれるはずです。