谷本:これからは、どのような人材が求められていきますか?
漆:当校では、今年から算数一教科入試を実施しました。これも、未来からの逆算です。これからの時代は「しゃべれる理系」と「数字に強い文系」が求められる。つまり、理系にしてもコミュニケーション力が高いにこしたことはなく、文系にしても、論理性やITスキルが必要になっていくということです。2020年までに役員比率の3割を女性にという政府の目標値もありますが、女性がリーダーの立場になっていくとき、自分や周りを見ていても、数字を管理して論理的に分析する力が求められていくと思います。
アンテナを立てるのは早い方がいい
谷本:社会スキルを育むとき、「食える」といった消極的な考え方においての自立の先に、どのような女性像を見据えていますか?
漆:働くとは何か、だと思います。「傍(はた)を楽にすること」と言う人もいますが、若い世代は「人の役に立つ」ことがモチベーションになっていると感じます。アメリカでは「働きたい職場ランキング」のトップ10にNPOが入ってきたりもする。誰かの困りごとを助けて、それがビジネスとして成り立つソーシャルビジネスの考え方が、若い世代にはフィットしているように思います。
谷本:先ほども数字に強いことが必要と仰っていましたが、まさにビジネスとして成り立たせるためには論理性は欠かせませんね。
漆:まさにそうです。数字に強いことに加えて、ITスキルも大切です。品川女子学院では、情報の授業でWEBサイトとアプリのプログラミングに全員が取り組みます。ここでもやはり社会課題に取り組んでもらいます。
たとえば、子猫が学校に迷い込んできたことがありました。学校にはおいておけないし、保健所に連絡をすると殺処分になってしまう。さて、どうする? ということで、その時は、生徒の中から預り手が見つかったのですが、それをきっかけに「飼い主が見つかるまでの間、一時預かりの状態がわかるアプリをプログラミングしたらいいんじゃない?」というアイディアが出てきたんです。
実現に至るまでには、問題発見能力、共感力、これに加えてITスキルが必要になりますよね。でもそれは、テストで良い点をとるとか、資格をとるための勉強ではなく、子猫を救うための勉強だった。学習の目的が明確になることで、モチベーションが高まるのです。
谷本:まさにソーシャルビジネスの疑似体験をされているのですね。着火ポイントを見つけるためのさまざまな仕組みがある中で、それが見つからない子もいますよね。
漆:着火ポイントが見つからない子もたくさんいます。早めの人生設計は大切ですが、やりたいことが決まっていないからといって焦りを感じる必要はありません。私がいつも言っているのは、早く見つけなければいけないのではなく、アンテナを立てるのは早い方がいいということ。違ったら軌道修正すればいいので、まずやってみる。途中までいって得たものは、そのまま違う分野にも平行移動できますから。