今回は、L=Law(法則)について(以下、出井伸之氏談)。
世の中は、数学の法則のもと存在するものが多い。例えば、音楽の「音」もそうだ。芸術として表現される音とサイエンスの基礎である数学、一見対極に思えるが、音階はすべて振動数=周波数で表すことができ、それはすべて、それは計算式で求めることができる。
例えば「ラ」の音の周波数は440Hz。その1オクターブ上は倍の880Hz、さらに1オクターブ上は1760Hzと、周波数の変化は弧を描くように指数関数で表される。このように、綺麗な法則の上に「音」はできている。
産業界においても、数学的な法則の上に成り立っているものは多い。
もっとも有名なものの一つは、1965年に発表された“半導体”における「ムーアの法則」で、半導体の性能は、18か月ごとに2倍に進化するという内容だ。当時、経験に基づく近未来予測として発表されたものであったが、それから50年以上経過した現在でも、半導体の性能はこの法則にほぼ従う形で向上を続けている。
振り返ると、ソニーの成長の礎は、この法則で表される半導体の進化にあった。ソニーが、音であるトランジスタラジオを皮切りに、映像であるテレビ、ビデオ、そしてPCと、時代のニーズに合わせた製品を生み出してきた土台には、半導体そのものの成長ロードマップが存在していたのである。
製造業の世界で大切な法則に、「収穫逓減の法則(Diminishing Return)」というものがある。実は農耕時代からこの法則で生産は成り立ってきた。生産量を上げようと材料やエネルギーを投入しても、ある一定の規模を境に効率が悪くなり全体の生産性が下がる現象だ。これは会社経営でも同じようなことが言える。事業の規模を大きく追い求めると、次第に投資に見合ったリターンが得られなくなる。
しかしこの収穫逓減を打ち破った「収穫逓増の法則(Increasing Return)」というものも存在する。生産設備の大規模化を行うほど単位コストが下がり、利益効率が上昇していくという法則だ。これは半導体メモリーで顕著に現れるものであり、サムスンの強さの源泉はここにある。
規模に関わる法則として、インターネット時代に入り大きなインパクトを与えたものは「メトカーフの法則」だろう。ネットワーク通信の価値はユーザ数の二乗に比例するというもので、インターネットのテクノロジーは繋がりと広がりで指数関数的に進歩することを記述している。
これにより企業価値を高めていったのが、グーグルをはじめとするプラットフォームビジネスだ。信頼性や利便性が高まると、利用する顧客がさらに多く集まる。このような法則のスパイラルの上で成長を続けている。
インターネット時代に新たに登場した法則も登場する。通信網の帯域幅は6ヶ月で2倍になるという「ギルダーの法則」だ。この法則によると、通信スピードは5年間で1000倍に進化する。これも指数関数的な成長だ。
求心力と遠心力
これから迎えるAIやブロックチェーンなどの新しい技術を前提とする時代では、どのような法則が登場するだろうか。「複雑系社会」とも言われる、複数の事象が影響し合う新時代のビジネスモデルを探るヒントは、ここにあるだろう。