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烏合の知(医療・紛争・事件の最前線)

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2017年の年の瀬が迫った12月22日、東京証券取引所で国内製薬大手のエーザイの株価が急落した。前日の21日には年初来最高値の7148円まで上昇していたが、22日の取引開始とともに値を下げ、一時は8月24日の年初来最安値5496円に近い5970円。終値ベースでは前日比14.8%減で同日の下落率トップという不名誉な結果となった。

原因は21日の取引終了後、同社が米バイオジェンと共同開発中のアルツハイマー型認知症に対する新薬候補の臨床試験中間成績で、有効性目標を達成できなかったと発表したためだ。1999年に世界で初めてアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト(一般名・ドネペジル)」を世に送り出したエーザイの次なる認知症治療薬開発に対して高まっていた期待の大きさが、裏目に出た形だ。

患者は増加の一途、治療薬は4種類のみ

2016年末時点で、先進国トップの高齢化(65歳以上)率27.3%を記録する日本。厚生労働省では2012年時点で高齢者の認知症患者は462万人、有病率は15%と発表している。認知症発症の最大のリスクファクターは加齢であるため、少子高齢化が進展中の日本では当面、この数は増えることはあっても減ることはない。実際、同省は2025年に認知症患者数は675~730万人、有病率は18.5~20%まで上昇すると推計している。

認知症が他の高齢者疾患よりも深刻なのは、家族などが介護に忙殺され、その生産性低下まで引き起こしてしまう点である。過去には認知症の親の介護のために仕事を辞め、経済的困窮に陥った子供が親を殺害してしまう痛ましい事件まで起きている。

官民あげての認知症対策強化が求められているなかで、最も期待されているのが効果の高い認知症治療薬の登場だ。

認知症は複数の病態に分類されるが、その中で約7割を占めるのがアルツハイマー型認知症だ。そして、現在ある4種類の治療薬のうち、世界初のアルツハイマー型認知症治療薬として1999年に世に送り出されたのが、エーザイが開発したアリセプトであった。この開発は母親がアルツハイマー型認知症を患った同社研究所勤務の杉本八郎氏(現・同志社大学客員教授)の執念の賜物と言われている。

それまではアルツハイマー型認知症と診断されてもほとんど治療手段がなく、患者やその家族にとって確定診断は絶望を意味した。アリセプトの登場は医療従事者、患者とその家族いずれにとっても福音だった。

医薬品業界では1剤で年商10億ドル(約1000億円)を超える大型製品を「ブロックバスター」と呼ぶ。アリセプトは瞬く間にブロックバスター入りし、最盛期には全世界売上高3228億円を記録した。

しかし、2010年以降アメリカをはじめとする主要国で特許が失効。これを機に成分が同じながらも安価なアリセプトのジェネリック医薬品に市場を侵食され、全世界売上高は500億円弱にまで落ち込んでしまっていたのだ。

文=村上 和巳

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