ヒットしたアリセプトだが、残念ながらその効果は限定的である。現在、アリセプトを含めた4種類の治療薬は、いずれも進行を遅らせる効果しかない。その効果も1年程度で尽きてしまうのが一般的だ。
まだ限られた選択肢しかないアルツハイマー型認知症では、次なる新薬登場への期待は患者やその家族を中心に極めて高い。また、今後患者が増加の一途を辿ることが確実なゆえに、新薬の潜在市場は巨大である。
エーザイは、アリセプトの特許失効前後から、次のブロックバスターを創出するべく、複数の後続アルツハイマー型認知症新薬の開発に取り組んでいきた。そのうち期待値が高かったものの一つが、今回米国のバイオテクノロジー企業と共同開発を進めていた新薬候補だったのだ。
エーザイのようにアルツハイマー型認知症新薬を開発する製薬企業に対する期待は否が応にも高くなる反面、開発が不調となれば、失望も極大化してしまう。師走のエーザイの株価急落は、まさにそのことを端的に示している。
世界大手も尻込みする認知症新薬開発
現在、アルツハイマー型認知症の原因は、「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるたんぱく質が脳内に異常蓄積し、神経細胞を死滅させることで起きると考えられている。その新薬開発の主流は、アミロイドβを取り除くために人工的に精製された抗体を注射薬として投与するタイプだ。今回芳しい成績を得られなかったエーザイが開発中の新薬もこのタイプである。
過去には国際製薬大手の米ファイザーや米イーライリリーなども同タイプの新薬開発に挑んだが、コストが見合わないことなどから製品化を断念している。アルツハイマー型認知症新薬の開発が進まないのには複数の理由がある(詳しくは次回)。
ただ、今回のエーザイの件も含む過去の「失敗」事例は、新薬として規制当局から承認を得られる水準までは至らなかったわけだが、完全に効果が否定されたものではない。新薬開発を継続するエーザイや、米国のバイオジェンは、アルツハイマー型認知症治療の希望と言っていい。