イラスト:Steve R. Neill
このイラストは、FT-1コンセプトの外観と世界一過酷なテストコース「ドイツ・ニュルブルクリンク」で目撃されたスープラ偽装車に基づいた、あくまでもアーティストによる想像イラストだ。でも、これはかなり近いと思う。
その偽装車とこのイラストを見てわかるのは、新スープラが過去15年間の全トヨタ車より、各段にエモーションを吹き込まれているということだ。それを実現させたのは、やはり「平凡さを捨てろ」と宣言してデザインチームを鼓舞した豊田章男社長であり、現行型86の多田哲哉主幹だ。新スープラのルックスとパフォーマンス、価格のバランスを統制しているのは多田だからだ。
さて、今回もっとも重要なのは、BMW社と共同開発した3種類のエンジンなのだ。エントリー・レベルの2.0Lの直4ターボエンジンは192psを発揮し、ハイパワー・バージョンの2.0Lターボは245psを叩き出す。そして、新スープラのフラッグシップ・モデルのエンジンはBMWが開発した3.0Lの直6ターボで、360psを発揮。どのエンジンも8速オートマティック・トランスミッションとの組み合わせになっている。
しかし、何と言っても驚くのが、新スープラの生産を担当するのがオーストリアの自動車製造業者、マグナ・シュタイア社ということだ。これまでのあらゆるトヨタ車と一線を画している。マグナ・シュタイア社は、メルセデス・ベンツやBMW、プジョーなど少量生産を専門としている。
新スープラの生産は今年の後期から始まり、2019年の春にヨーロッパと日本のショールームに登場する予定になっている。最大のマーケットとなるアメリカでは、2019年1月のデトロイト・モーターショーでのアンヴェイル後すぐに発売開始となる。
ところで、日本での販売は、トヨタの新しいサブ・ブランドであるGRでの専売となる。同社のレースング部門、Gazoo Racingから名付けられたこのスペシャリスト・ブランドは、昨年9月に始まり2018年3月末までに全国に39店舗が稼働する予定だという。
GRはゆくゆくは同社のラインナップのおおかたのカスタマイズするという使命を負っており、すでにヴィッツ、プリウス、86、ハリアーなど人気のある市販車のGRバージョンの販売を開始している。さらには、 新スープラや今月開催された東京オートサロンで発表されたハイブリッドのルマン・スペック・レーシングカーをベースとする1000psのGRスーパー・スポーツ・コンセプトなど、特に選び抜かれたモデルを扱うことになっている。ドレスアップだけでなく、GRで専売するためのユニークな特別車両をGRとして販売していく戦略だ。
フォーチュン誌の今年の「世界で最も尊敬される企業トップ50」で、BMWは19位、トヨタは29位にランクされているが、日独共同プロジェクトとしてのヒーロー・カー開発のお陰で、両者の地位は来年もっと高くなるだろう。
新スープラの価格はエントリー・レベルの2.0Lタイプが500万円台、そしてフラッグシップの3.0Lタイプは600万円台後半になりそうだ。ショールームに姿を現す来年の春が、今から待ち遠しい。
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