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里山に住む「ミニマリスト」のDIY的暮らし方

KPG_Payless / shutterstock.com

消費欲に踊らされることなく、職住を近くして、見知った顔の人たちがそこで働き、暮らし、銭湯につかる。経済成長なき時代、そうした半径3km圏内でめぐる経済に、これからの生き方のヒントがあるのではないか……。

「銭湯経済」は、平川克美さん著の大好きな本『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』(ミシマ社)で出会った言葉である。

都市部と田舎では、銭湯の役割がいくらか異なるかもしれない。そこで今回は、東京から長野に移住した私たちが体験している、田舎における「銭湯経済」を紹介したい。

田舎の人は、私の知る限りではたいてい、あまりお金を使わない。

建築士でありながらも大工と説明したほうが無難なほど現場で施工の仕事をしている夫は、平日は帰宅をすれば幼児の世話に忙しい私に代わって夕飯を用意してくれる。週に1度の休日は、畑しごとや薪割り、草刈りといった野良しごとに加え、住まいや車のメンテナンスに追われている。お金を使う暇があんまりなさそうだ。

夫がお金を使うものといえば、「現場近くでいい店を見つけた」と喜んで話す500円程度のランチと、ときどき娘に誘われて行く、銭湯くらいだろうか。私たちが住んでいる長野県富士見町という八ヶ岳の麓のまちは、車でちょっと行ける距離に、5か所ほど温泉施設があるのが自慢だ。

その中で一番料金が安くて私たちが一番よく行く施設は、たたずまいが温泉というよりは銭湯に近い。露天風呂もない。小ぶりな浴槽の壁に貼られたタイルには、娘が通う小学校の昭和30年の運動会の写真や、すぐ近くの縄文遺跡を最初に発掘した日の写真が、プリントされている。

それだけでもすでに、その銭湯がどこを見ているかがわかるような気がして、親近感が湧く。

その銭湯に行くと、顔見知りの人が多くて、安心する。帰り道、「女湯で誰々さんに会ったよ」と私が話すと、「男湯では誰々さんに会ったよ」と夫がいう。とにかくご近所さんばかりなのである。

銭湯でのご近所さんとの会話は、いたって他愛もない話だ。「今年の冬はやけにあったかいね」とか、「カマキリの卵がこんな高いところにあったから、今年はドカ雪が降るかもね」とか。

カマキリの卵は雪に埋もれると窒息状態になってしまうことから、その年の積雪量より上の位置に卵を産むといわれている。だから雪の降る田舎では、カマキリの卵の高さは、気になる話題なのだ。

文=増村江利子

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