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スリルボックスの創業者、ベンジャミン・デュラハム

Thrillbox(スリルボックス)の創業者ベンジャミン・デュラハムは、毎週土曜日の朝をいつもより緊張して迎える。午前の3時間、彼より2回りほど年上のグレーヘアの男と膝詰めで議論するからだ。ユーザーからの要望をどう取り入れるか。提携交渉をどのように進めるか。次の資金調達をどうやって行うか……。デュラハムは自身の考えうる最善の策を話すが、何をすべきかは教えてくれない。教えてくれるのは「何をしてはいけないか」だけだ。

グレーヘアの男の名は、マイク・ラブという。オースティンのスタートアップ界隈では誰もが知る有名人で、この地を代表するユニコーン企業Mozido(モジード)のボードメンバーの一人だ。モバイル向けの決済プラットフォームを提供するモジードの評価額は、約2600億円と言われる。

ラブはこれまで数々の会社を立ち上げてきたシリアル・アントレプレナー。その傍ら、創業間もない起業家たちのメンターとして、事業戦略や人材戦略などのアドバイスを行ってきた。「こんなに凄い人が親身になって相談に乗ってくれる。『コラボラティブ(協働)』の精神がオースティンには深く根づいているんだ」とラブのメンタリングを受けてきたデュラハムは言う。

駆け出しの起業家とメンター。2人の関係は今、そこから変化している。2017年3月から、ラブがスリルボックスのCEOを務めることになったのだ。

「僕はCOO。お前はサービスの開発に集中しろ、俺が成功させてやるってね。最初は戸惑ったけど、そのほうが成功確率が上がると思って受け入れることにしたんだ。今は日本のゲーム会社とも交渉を進めていて、順調に拡大しているよ」

デュラハムとラブが出会ったのは、オースティン最大のインキュベーター施設Capital Factory(キャピタルファクトリー)だ。ここには700社のスタートアップ企業が入居し、1200人が働く。また、100人を超える起業経験者や、VC、弁護士といった300人を超える専門家が、メンターとして起業家の指導を行う。16年だけでも、3700回を超えるメンタリングが実施された。

シリコンバレーやニューヨーク、ボストンなど大都市にあるスタートアップ・ハブには、数の上ではオースティンよりも多くのプロフェッショナルが存在する。オースティンの特徴はどこにあるのか。マネジングディレクターを務めるジョージア・トムセンは、こう説明してくれた。


キャピタルファクトリーのジョージア・トムセン。

「異なる領域のプロフェッショナルがいることが大きいね。オースティンのスタートアップ・コミュニティはまだ他の都市と比べて規模が小さいから、特定の場所に凝縮されている。その中心がここ。私たちは単なるインキュベーターじゃない。コラボラティブなコミュニティをデザインし、運営しているプロデューサーなんだ」

キャピタルファクトリーが設立されたのは09年。入居者はこの8年で増え続け、1200人を超えた。

なぜ、オースティンに起業家が集まっているのか。今回の取材で出会った起業家たちの多くは、その理由を語るとき、「コラボラティブ」という言葉を使って説明してくれた。

若き起業家を支える「デリオネア」たち

オースティンに根づくコラボラティブの精神。その源流はどこにあるのか。オースティン・テクノロジー・インキュベーターでディレクターを務め、長年この地でスタートアップシーンを見守ってきたミッチェル・ジェイコブソンを訪ねた。

「1987年 、国防総省と民間企業が組み、SEMATECH( Semiconductor Manufacturing Technology)という次世代半導体の製造技術確立に向けたコンソーシアムが設立されて、この街は変わった。参加企業はモトローラ、AMDといった先端ハイテク企業。これが、今に続くハイテククラスター・オースティンの始まりさ。大企業の動きに引き寄せられるように、多くの優秀なハイテク分野の人材がオースティンにやってきたんだ」

同時期にIBMも、独自のオペレーティングシステムの開発をオースティンで行うことを決めた。84年〜92年の時期にIBMオースティンが全米中からかき集めたエンジニアだけで500人に上る。

IBMオースティンからは「Tivoli Systems(チボリ・システムズ)」も生まれた。創業者の4人は、ともにIBMオースティンでオペレーティングシステムの開発に従事していた同僚。95年には上場を果たし、脚光をあびることになる。

文・写真=小田駿一

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