平等の権利を求めて立ち上がった、レズビアン・カップルの闘いの行方

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』で共演したエレン・ペイジ(左)とジュリアン・ムーア(右)(Photo by Jamie McCarthy/Getty Images)


二人の幸せは長く続かず、ある日末期ガンであることが判明したローレルは、治療に専念するため休職。あとに残されるステイシーのため、「州のパートナー法を適用し、自分の死後、遺族年金をステイシーが受け取れるようにしてほしい」と郡政委員会に嘆願書を出す。

驚きと混乱に見舞われる委員会の面々。「適用は可能では」と問う委員がいる一方、反対派委員は「パートナー法は結婚の神聖を冒すもの。こんなものを認めるのは政治的自殺行為だ」とまるで取り合わない。

彼女たちを応援するデーンは、月2回の公開委員会で直訴してはと提案。「平等な措置を」との第一回目の訴えは拒否されたが、地元の新聞が取り上げたことで、同性婚法制化を目指す同性愛者の団体が動き出す。

その代表であるゲイのユダヤ人スティーブンの押しの強いキャラに、当初は警戒するローレルやステイシーだったが、願いの実現のため彼らの力も借りることに。ここから始まる、ローレルたち同性愛者やその支援者と、州のパートナー法を郡に適用するのを拒む郡政委員会との攻防が興味深い。

次の公開委員会に押し掛けた同性愛者団体の激しいアピールに委員たちは動揺するが、結果はやはり拒否。デーンは職場でローレル支援を呼びかけるものの、同僚たちの反応は芳しくない。

美しい金髪もごっそり抜け落ち憔悴しきった中で、最後まで正義を信じようとするローレル、内心絶望感に打ちひしがれながらも、それを隠してパートナーに献身するステイシー。何もかも異性愛カップルと変わらない彼女たちの権利獲得を阻んでいるのは、同性愛者への偏見ばかりでなく、保守的地元民への郡政委員会の「忖度」という構図が明らかになっていく。

娘とそのパートナーを労り静かに寄り添うステイシーの母親、ゲイであることを隠しつつシンパシーを寄せる職場の新米警官、同性愛者蔑視発言を連発する同僚、そして相棒のために奔走するデーンと、委員会の中で唯一の賛成派であるブライアンの葛藤……。周囲の人々のさまざまな思惑の中で、ローレルの病状は進みタイムリミットが迫ってくる。

結果的に彼女の嘆願書は記念すべき前例を作ることになるのだが、一つだけ私が気になった点がある。

ローレルは上司や同僚たちの信頼の篤い、ほぼ非のうちどころのない優秀な刑事として描かれている。実際、モデルとなった女性はそうだったのだろう。それだけに、最終的に同僚たちが支援に回ったのは、彼女が職業人として既に功績があり立派な人柄だと認識されていたからではないか? との思いが脳裏を掠める。もし並みの警察官だったり職場で「敵」を作りがちな人柄だったとしたら、彼らは果たして動いただろうか。

「皆に好かれる立派な同性愛者」であれば支援するが、そうでなければ支援しない、したくないという感情は今でもまだ根強くある。だがそれこそが差別だ。権利はすべての人が平等に有するものなのだから。

映画連載「シネマの女は最後に微笑む」
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文=大野左紀子

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