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2017.11.08 17:30

32年後の世界は「ブレードランナー 2049」が描くディストピアとなっているのか?

左から、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、ライアン・ゴズリング(Photo by Juan Naharro Gimenez/FilmMagic)

左から、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、ライアン・ゴズリング(Photo by Juan Naharro Gimenez/FilmMagic)

35年ぶりの続編として公開された映画「ブレードランナー 2049」。タイトルが示す通り2049年の未来社会を描いている。

実は、1982年に公開された前作「ブレードランナー」の舞台は、2019年のロサンゼルス。いまから2年後の世界なのだが、地球環境は汚染され、絶えず酸性雨が降りそそぎ、なぜか街には日本語の看板があふれていた。現時点での世界が、最初の作品で描かれたようなディストピア(ユートピアの反対語、暗黒郷)となっていないのは、たいへん喜ばしいことだが、ハリソン・フォード扮する主人公リック・デッカードは連絡のためにクレジット式のテレビ公衆電話を使っており、さすがにスマートフォンの登場は予見できなかったと思える。

さて新作の「ブレードランナー 2049」は、いまから32年後の世界を描いているのだが、人類がつくった人造人間であるレプリカントが、ヒト並みの知性だけではなく、ついに子孫を増やせる能力まで持ち始めている。舞台は同じくロサンゼルス周辺だが、地球温暖化で地表は砂漠化しており、絶えず襲ってくる津波に備え海岸線には巨大な防波壁が築かれている。街には酸性雨に代わって雪が散らつき、やはりそこでわれら人類が迎えるのは、ディストピアの未来だ。

ブレードランナーとは、人間たちに反旗を翻したレプリカントたちを狩る捜査員の名称で、前作ではリック・デッカードが、次々にレプリカントたちを「処理」していったが、最後は心を通じた女性レプリカントとともに逃げ出すところでエンドマークが打たれていた。新作はその物語を引き継ぐかたちで展開していくのだが、ライアン・ゴズリング扮するレプリカントのKが、密かに誕生していたレプリカントの「子供」を探し出すまでの物語が中心となっている。

1982年の「ブレードランナー」ではリドリー・スコット監督がメガホンをとっていたが、2017年の「ブレードランナー 2049」ではスコットは製作総指揮にまわり、代わってカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督をつとめている。

ヴィルヌーヴは、最近では「メッセージ」(2016年)などの監督としても注目を集めているが、この「ブレードランナー 2049」では、彼がカナダ時代に撮った傑作「灼熱の魂」という作品でテーマにした「ルーツ探し」が物語のメインとなっている。すなわちレプリカントである主人公Kのルーツ探し及び自分探しで、それはとりもなおさずレプリカントとは何か、翻って人間とは何かを問いかける内容ともなっている。

実は「ブレードランナー」は、「スター・ウォーズ」(1977年)や「未知との遭遇」(1977年)、「エイリアン」(1979年)などのSF映画の大ヒットを背景にして製作された。そこで提示されたディストピアとしての未来は鮮烈な印象を与えたが、どちらかというとスペクタクル作品というよりも哲学的な内容も含んだものであったため、公開当初の観客動員はけっして芳しいものではなかった。むしろ、その後、徐々に評価を高めていった作品なのだ。
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文=稲垣伸寿

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