32年後の世界は「ブレードランナー 2049」が描くディストピアとなっているのか?

左から、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、ライアン・ゴズリング(Photo by Juan Naharro Gimenez/FilmMagic)


「ブレードランナー 2049」も鳴り物入りで公開されたが、初週こそ北米の興行収入で3150万ドルを記録して第1位に立ったものの、2週目には1510万ドルと落ち込み、首位を滑り落ちている。

この数字は1億5000万ドルの制作費(宣伝費別)にとても見合うものではないと言われており、大ヒットとは言い難いとも聞く。暗い未来世界で繰り広げられるルーツ探し及び自分探しの内省的テーマが、いまのアメリカの国情に合わなかったのかもしれない。

前作が近未来のロサンゼルスを舞台にした探偵もの(フィリップ・マーロウのような)の体裁をとっていたのと同じように、今作もまた、Kを主人公にしたシーク&ファインドの物語となっている。そして、Kが探し当てるのは、前作で女性レプリカントと逃避行を敢行したデッカード。30年たった彼の口から真実が漏らされるとき、Kの心中には途方もない空虚と孤独が広がる。

そういう意味で言えば、これは単なるSF映画などではなく、極めて哲学的内容を含んだシリアスな作品なのだ。そしてレプリカントKの疎外感は、そのまま現代の人間にも当てはまる。ヒット作「メッセージ」で異星人との交流を知的なアプローチで描いたヴィルヌーヴ監督は、この作品でも近未来の物語を借りて、明らかにそれを狙っている。

果たして今から32年後、この世界は「ブレードランナー 2049」で描かれたようなディストピアとなっているのか。前作が予見した35年後の世界、すなわち2019年が、現時点ではそれほど悪いものとはなりそうもないように、すべてが杞憂に終わることを祈っている。

文=稲垣伸寿

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