『KDDIが、IoT通信プラットフォームを提供するソラコムを買収』。
そんなスクープ記事が日経新聞の一面を飾ったのは8月2日。買収額は約200億円とも報じられたが、このニュースが大きな話題になった最大の理由は、買収されたソラコムが2015年に創業されたばかりにもかかわらず、スタートアップ界のスターだからだ。ソラコムの顧客は国内外で7000超。地方のバス会社から自動販売機や物流管理網まで、センサーなどをネット回線に低価格でつなげるIoTサービスで急成長中だ。
上場すると見られていたソラコムが、なぜKDDIの子会社になるのか。また、KDDIの田中孝司社長はなぜ買収に踏み切ったのか。その舞台裏と未来への思いを、2人が語り尽くした。
ーM&Aまでに、どんな経緯があったか。
田中:これは初めて話すのですが、1年ほど前に、社内でソラコムのことを「これは面白い。きっと世の中はこうなるから、未来に張ろうよ」という話をしました。あとは、出資額の議論だけでした。
なぜ面白さを感じたかというと、我々は携帯などモバイルを売り続けてきた通信屋です。クラウドというイノベーティブなテクノロジーの登場は、通信屋にとっても衝撃でした。ソラコムはそのクラウド上で、IoTを使いたい会社を対象にモバイル事業を展開しています(IoT通信プラットフォーム「SORACOM」は、クラウド上でパケット交換機能などをソフトウェアで開発した、いわば資産をもたない「バーチャルキャリア」)。
つまり、クラウドとモバイルを融合させたので、これは我々の収益の源泉であるモバイルの世界を侵略すると思ったのです。でも、この流れは止まらなくなるだろうし、それに面白い。だから、「未来に張る」という発想になったのです。
玉川:昨年10月にKDDI IoTコネクトAir(IoT向け回線サービス)を共同開発しているときから協業の相談を進めてきましたが、田中社長のそんな話は初耳です。
田中:僕はわりとテッキーな性格だから正直に言いますね(笑)。僕が若いとき、1984年に日本とアメリカの間でインターネットがつながりました。アップルが初代マッキントッシュを発売した年です。このころ、僕はスタンフォード大学に留学していて、インターネットの始まりを目の当たりにしたのですが、誰もこのとき、インターネットがここまで大きくなるとは考えていなかった。
それが、インターネットでコンピュータ同士をつなげるようになることで、通信業者が担っていた仕事は、コンピュータ業者だけでもできるようになりました。クラウドの登場も同様に、通信の専売特許だったものを解体しました。それでも通信業界が収入基盤として維持してきたのがモバイルだったわけです。ところが、ソラコムはクラウドとモバイルを融合させて、世界でブレイクスルーを起こした。