IT評論家にして、モチベーションの正体を解析した本「モチベーション革命」を上梓した尾原和啓氏に、Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が聞いた(前編)。
谷本有香(以下、谷本):尾原さんが先般「モチベーション革命」という本を出版されましたが、私、その人のモチベーションになる「what」を見つけるのって実はかなり難しいことじゃないかと思っているんです。
尾原和啓氏(以下、尾原):そこが一番本でも書きたかったところ。イグニッション(着火)の仕方が目標や達成、快楽にあった“上の世代”と、そんなところに何の魅力を感じない“下の世代”との間にはギャップがあるんです。
つまり、ワインと美女イェーイ!で「目標」と「快楽」で着火できる上の世代の人たちと、ワインと美女ではなく、自分の好きなことに打ち込むほうが好きな若い世代の人たちが共存している。ちょうど、その境目となる年齢が36歳くらいです。
いま36歳くらいの人たちは、大学入学した時に就職氷河期、社会人の浅い頃に、ライブドア事件やリーマンショックを経験していたり、むしろ「数字を達成して美女と焼肉」みたいなものが、むしろダサ、みたいになっている。
谷本:それが、社会の歪みを生んでいるんですね。
尾原:そう。漫画『課長 島耕作』ってあるじゃないですか。あの物語は、島が34歳のときから始まるんです。しかも、誰が1番最初に課長になるのか、というところから始まる。課長とか役職は、何度も転職している僕らからしたらどうでもいいし、僕の周りで言えば、34歳は一度会社を売却して次のレースに入るようなタイミング。
でも、冷静に考えてみると、それはベンチャー界隈の話であって、一般的に考えると島耕作のように悩んでいる人の方が人口的には圧倒的に多い。そこでこの本を書いてみようと思ったのです。
上の世代は「目標を達成したら美女と焼肉」と思っているけど、課長は間世代で自分はそういうのは好きじゃない。さらに、下を見ればそんなのに全く反応しない後輩ばかり。下の世代からして見ると、会社の方向性を決める人たちが自分たちの心に響くことを言ってくれない。だから頑張れないのは当たり前なのに、上の世代は若い人は頑張れないからだめだという。その歪みを取らないといけないな、と思ったんです。
谷本:では、そういう人たちをどう着火していくのか。走り出すためのイグニションは何なのかということですよね。
尾原:モチベーションとテンションは違うんです。テンションっていうのは、なにかに外から引っ張られて動くという感じ。強制的に自分の外にある報酬やインセンティブとかで火がつくまでの速度をつける。これが昔のやり方でした。
上の世代の時代は、世の中にないものが溢れていたから、それを埋めるだけでかっこよかった。美女に会うのもドンペリを飲めるのもご褒美だったんです。ただこれでは、外(自分の内側ではない要素)に引っ張られるから疲れてしまう。これでは、下の世代はついてこない。そうしてテンションで人を動かすことをダサいと思っているから、動いてくれないんです。